近親者間の性暴力は、家庭という閉鎖的な環境で発生することがあり、被害の発覚や相談が遅れる場合がある。
事件を理解するうえでは、逮捕された人数だけでなく、被害者と加害者の関係、事件が発覚した経緯、被害者の年齢、家庭内の監護関係などを確認する必要がある。
2026年時点で確認できる性犯罪の統計
2026年版男女共同参画白書によると、不同意性交等の認知件数は次のように推移している。
不同意性交等の認知件数
警察が認知した件数・暦年
出典:内閣府「令和8年版男女共同参画白書」。2023年7月以前の事件は旧罪名の数値を含む場合がある。
2025年の認知件数は4,177件で、前年から241件、6.1%増加した。
ただし、この数字は近親相姦事件だけを集計したものではない。また、認知件数の増加が、そのまま実際の被害発生数の増加を意味するわけでもない。法改正による処罰対象の整理や、これまで表面化しにくかった被害が届け出られるようになった影響も考慮する必要がある。
親族による性犯罪はどの程度確認されているのか
法務省の令和7年版犯罪白書では、不同意性交等の検挙事件について、被害者と被疑者の関係も分析されている。
2024年の検挙事件では、被害者が加害者の実子・養子に当たるケースと、その他の親族に当たるケースは、それぞれ構成比で4%台だった。
また、同年の監護者性交等罪については、次の数字が公表されている。
| 項目 | 2024年の件数 |
|---|---|
| 監護者性交等の認知件数 | 75件 |
| 監護者性交等の検挙件数 | 68件 |
| 不同意性交等の認知件数 | 3,573件 |
| 不同意性交等の検挙件数 | 2,846件 |
これらは近親者間の性的虐待すべてを網羅した数字ではない。とりわけ、親族による性暴力の全体像を把握するためには、刑事事件として認知されたもの以外の被害にも目を向ける必要がある。
事件報道で確認すべき関係者と法律の対応
近親者間の事件では、家族関係と法律上の監護関係を混同しないことが大切だ。
| 確認対象 | 関係する法律・人物 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 親と子 | 刑法177条・179条 | 子どもの年齢、同意の自由、監護者の影響力 |
| 兄弟姉妹 | 刑法177条 | 暴行、脅迫、虐待、心理的圧力など |
| 祖父母と孫 | 刑法177条・179条 | 実際の監護関係や拒否できない状況 |
| おじ・おばとおい・めい | 刑法177条・179条 | 年齢、生活上の依存、監護の実態 |
| 養親と養子 | 刑法177条・179条、民法734条・736条 | 養育関係、影響力、婚姻禁止の範囲 |
| 事件の捜査・裁判 | 警察・検察・裁判所 | 逮捕、起訴、判決を区別する |
特に注意したいのは、血縁関係がないから監護者性交等罪が成立しないとは限らないことだ。反対に、血縁関係があるだけで監護者性交等罪が自動的に成立するわけでもない。
近親相姦事件の経緯と真相を見極めるポイント
事件報道を読む場合、最低限、次の4点を確認したい。
1. 被害者の年齢: 行為があった当時、13歳未満、16歳未満、18歳未満のどの区分に該当していたか。
2. 加害者との関係: 実親、養親、兄弟姉妹、その他の親族なのか。また、実際に監護していたのか。
3. 事件の発覚経緯: 被害者本人の相談、第三者からの通報、学校や医療機関からの情報提供など、何が捜査のきっかけになったのか。
4. 刑事手続の段階: 逮捕、送検、起訴、公判、有罪判決のどこまで進んでいるのか。
逮捕は犯罪事実が確定したことを意味しない。起訴も有罪判決とは異なる。報道された容疑と、裁判所が認定した事実を区別することが、事件の実態を正確に理解するための基本となる。
また、被害者が家族に相談できなかったことや、事件の発覚まで長い時間がかかったことだけで、被害の不存在を判断することはできない。家庭内の力関係や心理的な支配が、被害の申告を難しくしている場合もある。
【判例と裁判】近親者間の性暴力で裁判所は何を判断するのか

近親者間の性犯罪では、被害者が拒絶できたかどうかだけでなく、家庭内の立場や影響力がどのように利用されたのかが争点になる。
その判断に関係する重要な裁判例が、2025年1月27日の最高裁判所第一小法廷の決定だ。
2025年1月27日・最高裁判所の監護者性交等事件
この事件は、当時16歳だった子どもに対し、実母と意思を通じた第三者が性交等をした事案である。
第三者自身は子どもを現に監護する立場にはなかった。しかし、監護者である実母が子どもに性交に応じるよう説得するなどしており、第三者と実母が意思を通じていた。
最高裁判所は、次の趣旨を示した。
- 監護者ではない者であっても、監護者と共謀する場合がある。
- 監護者の立場による影響力を利用して性交等をした場合、刑法65条1項の適用によって監護者性交等罪の共同正犯が成立し得る。
- 被告人自身が監護者ではないことだけを理由に、処罰対象から外れるわけではない。
最高裁は上告を棄却し、2025年1月27日付で決定した。
この裁判で適用されたのは、2023年改正前の刑法179条2項である。ただし、監護者の影響力を第三者が利用した場合にも共同正犯が成立し得るという判断は、家族間の性暴力を考えるうえで重要な意味を持つ。
裁判で重視される証拠と事実関係
近親者間の性犯罪では、家庭内という密接な環境で行為が繰り返されることもあり、第三者による目撃証言が得られない場合がある。
そのため、裁判では複数の事情を総合的に検討する。
主な確認事項は次のとおりだ。
- 被害者の供述と、その内容の具体性・一貫性
- メッセージ、メール、通話履歴などの通信記録
- 医療機関の診療記録や身体的所見
- 学校、親族、支援機関などへの相談記録
- 被告人と被害者の生活関係や監護状況
- 継続的な虐待や心理的支配の有無
ただし、特定の証拠が存在しないことだけで、被害がなかったと判断することはできない。
裁判所は、証拠全体と法律上の構成要件に照らして犯罪の成立を判断する。
【2026年最新】性犯罪関連法改正と公訴時効の変更点
2026年11月時点で、近親相姦そのものを独立した犯罪として新設する刑法改正は行われていない。
現在の制度を理解するには、2023年の性犯罪規定の改正、2025年の拘禁刑導入、2026年の刑事手続に関する改正を分けて考える必要がある。
2023年7月:不同意性交等罪の新設
2023年7月13日、改正刑法が施行された。
主な変更点は次のとおり。
| 改正項目 | 主な変更内容 |
|---|---|
| 不同意性交等罪 | 強制性交等罪などを整理・改正 |
| 同意の判断 | 8つの原因・状況を具体的に明示 |
| 性交同意年齢 | 13歳未満から16歳未満に引き上げ |
| 性交等の範囲 | 身体の一部や物の挿入も対象に追加 |
| 配偶者間の性犯罪 | 婚姻関係の有無にかかわらず成立することを明確化 |
| 面会要求等罪 | 16歳未満の子どもへの一定の性的目的の面会要求などを処罰対象に |
加えて、性的姿態撮影等処罰法も2023年に施行され、正当な理由のない性的姿態の撮影や画像の提供などについて処罰規定が整備された。
これらは近親者間の事件にも関係する。家庭内での性的虐待を撮影したり、画像を第三者に提供したりする行為も、状況に応じて別の犯罪に該当する可能性がある。
2025年6月:懲役・禁錮から拘禁刑へ
2025年6月1日には、刑法改正によって拘禁刑が導入された。
これまでの懲役と禁錮が廃止され、受刑者の特性に応じた改善更生や社会復帰を目指す新たな刑罰として拘禁刑が設けられた。
そのため、2026年現在の刑法177条や179条の法定刑を説明する際は、旧法の「懲役」ではなく「拘禁刑」と表記する必要がある。
不同意性交等罪と監護者性交等罪の基本的な法定刑は、5年以上の有期拘禁刑である。
2026年の刑事訴訟法改正との関係
2026年7月には、令和8年法律第67号として刑事訴訟法の一部を改正する法律が成立・公布された。
この改正の中心は、再審請求における証拠の提出や審理手続、検察官による不服申立てなど、再審制度の見直しである。
したがって、これを近親者間の性犯罪を新たに処罰する改正と理解するのは正確ではない。刑法177条・179条の犯罪成立要件とは区別して把握する必要がある。
性犯罪の公訴時効は何年?
2023年の改正では、性犯罪の公訴時効も延長された。
2026年現在の主な期間は次のとおり。
| 犯罪の種類 | 公訴時効 |
|---|---|
| 不同意性交等罪 | 15年 |
| 監護者性交等罪 | 15年 |
| 不同意わいせつ罪 | 12年 |
| 監護者わいせつ罪 | 12年 |
| 不同意性交等致死傷罪(負傷の場合) | 20年 |
加えて、被害者が犯罪行為の終了時に18歳未満だった場合は、基本の時効期間に、犯罪行為の終了時から18歳に達するまでの期間が加算される。
例えば、12歳で不同意性交等の被害に遭った場合は、基本の15年に18歳までの6年間を加え、公訴時効は原則21年となる。
つまり、犯罪行為から21年後まで公訴が可能となり、被害時の年齢でいえば33歳までが目安になる。
ただし、時効がすでに完成していた事件について、2023年の改正によって時効が復活するわけではない。実際の適用には事件の発生時期や経過措置の確認が必要だ。
【被害者支援と相談窓口】家族間の性暴力から身を守るには
家族間の性的虐待では、被害者が加害者と同じ家で暮らしていたり、経済的に依存していたりする場合がある。
そのため、相談や被害申告をためらうこともある。
2026年版男女共同参画白書が紹介する2023年度の調査では、不同意性交等の被害経験があると回答した人のうち、55.7%が誰にも相談しなかった。
相談できなかった背景には、恐怖、羞恥心、相手との関係、周囲に信じてもらえない不安など、さまざまな事情が考えられる。家族が加害者である場合には、相談先そのものを見つけにくいこともある。
1.性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
#8891(はやくワンストップ)
内閣府男女共同参画局の相談窓口
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターでは、次の支援を受けられる。
- 産婦人科などの医療機関との連携
- 緊急避妊薬や性感染症検査などの医療的支援
- 心理カウンセリング
- 弁護士などの専門家につなぐ法的支援
- 警察への相談や同行支援
被害者が警察に被害届を出すかどうかを決める前に、相談することもできる。
一部のIP電話などからは利用できない場合がある。
2.警察の性犯罪被害相談電話
#8103(ハートさん)
警察庁・各都道府県警察の相談窓口
警察に相談したい場合は、全国共通番号の#8103を利用できる。
発信地域を管轄する都道府県警察の性犯罪被害相談窓口につながり、被害の相談や捜査に関する問い合わせができる。
緊急の危険がある場合は110番を利用する。
3.児童相談所虐待対応ダイヤル
189(いちはやく)
こども家庭庁・児童相談所
18歳未満の子どもが家族から性的虐待を受けている疑いがある場合や、周囲の人が虐待に気付いた場合には、189に相談できる。
児童虐待防止法では、子どもへの性的行為、性的行為を見せること、性器を触る・触らせること、ポルノグラフィの被写体にすることなどが性的虐待に含まれる。
通告や相談は匿名でも可能で、相談者の秘密は守られる。虐待かどうか確信が持てない段階でも相談できる。
被害に遭った場合に覚えておきたいこと
家族からの性暴力を受けた場合、被害者が一人で加害者と対峙する必要はない。
安全を確保できる場所に移動し、信頼できる第三者や専門機関に相談することが先決だ。
可能であれば、メッセージやメール、相談した日時、医療機関の記録などを保管しておくと、後の相談や捜査に役立つことがある。ただし、証拠を集めるために危険な環境にとどまる必要はない。
被害者に責任はない。 家族関係や血縁関係を理由に、被害を我慢する必要もない。
【近親相姦事件】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:近親相姦は日本では犯罪にならないのですか?
A1:近親相姦という名称の独立した犯罪は刑法に設けられていない。ただし、不同意性交等罪や監護者性交等罪などの要件を満たせば、家族間であっても処罰される。民法734条によって一定の近親者間の婚姻も禁止されている。
Q2:親と子の間で双方が同意している場合でも犯罪になりますか?
A2:被害者が18歳未満で、親など現に監護する者がその立場による影響力を利用して性交等をした場合は、監護者性交等罪が成立し得る。また、16歳未満の場合には刑法177条の年齢要件も問題になる。成人の場合も、心理的支配や虐待などによって自由な意思決定が困難だった場合には、不同意性交等罪が成立する可能性がある。
Q3:近親者間の性犯罪は何年で時効になりますか?
A3:不同意性交等罪と監護者性交等罪の公訴時効は原則15年。被害者が18歳未満だった場合は、18歳になるまでの期間が加算される。例えば12歳で被害に遭った場合は、原則21年となる。ただし、事件の発生時期や経過措置によって適用が異なるため、個別の確認が必要だ。
まとめ:近親相姦事件を理解するための判断基準
近親相姦事件をめぐる法律問題は、単に血縁関係があるかどうかだけでは判断できない。
2026年11月現在の日本の法制度では、刑法177条の不同意性交等罪、179条の監護者性交等罪、民法734条の近親者間の婚姻禁止が、それぞれ異なる役割を担っている。
特に押さえておきたいのは、次の5点だ。
1. 近親相姦そのものを一律に処罰する独立の犯罪規定はない。
2. 家族間でも不同意性交等罪は成立する。
3. 18歳未満の子どもに対して監護者の影響力を利用した性交等は、監護者性交等罪の対象になる。
4. 近親者間の婚姻は民法734条などによって制限されている。
5. 性犯罪の公訴時効は延長され、被害時に18歳未満だった場合には特別な加算期間が設けられている。
【プロの結論】
近親者間の性暴力を判断するうえで、最も重要なのは、家族という関係の内側で、本人の性的自己決定権が守られていたかどうかである。
親子、兄弟姉妹、祖父母と孫など、関係性によって法律の適用は異なる。しかし、家庭内で起きた行為だからといって、性暴力が許容されるわけではない。
また、事件報道では、逮捕されたという事実と裁判で確定した事実を混同せず、被害者のプライバシーにも配慮する必要がある。
2026年の最新制度を理解する際には、2023年の性犯罪規定改正、2025年の拘禁刑導入、現在の公訴時効制度を区別して確認することが大切だ。
そして、被害に遭っている人や、身近な子どもの異変に気付いた人は、家族内の問題として抱え込最初に、#8891や189などの専門窓口につながることが、被害の拡大を防ぐ第一歩となる。