「知る」の謙譲語には「存じる」と「存じ上げる」があります。どちらも自分が知っていることをへりくだって伝える表現ですが、実は対象が人なのか、物事や情報なのかによって適切な使い方が異なります。また、「存じております」「承知しております」「ご存じでしょうか」も、意味や敬意を向ける相手が同じではありません。
ビジネスメールや取引先との会話では、敬語の選び方ひとつで文章の印象が変わります。文化庁の「敬語の指針」に示された敬語の分類も踏まえ、2026年現在のビジネスシーンで役立つ正しい使い分け、具体的な例文、間違いやすい表現まで詳しく解説します。
【結論】「知る」の謙譲語は「存じる」と「存じ上げる」のどちらが正しい?

最初に答えを整理すると、どちらも正しい敬語です。ただし、使う対象と敬語の働きが異なります。
- 存じる: 物事、情報、事柄などを知っている場合に使う。
- 存じ上げる: 人を知っている場合に使う。
例えば、取引先から新しいサービスについて聞かれた場合は「そのサービスについては存じております」が自然です。一方、取引先の担当者や著名な人物について知っていることを伝える場合は「その方のことは存じ上げております」と表現します。
この違いには、単なる言葉の長さ以上の意味があります。
文化庁の「敬語の指針」では、「存じ上げる」を謙譲語Ⅰ、「存じる」を謙譲語Ⅱ(丁重語)に分類しています。
つまり、両者はどちらも謙譲表現ですが、敬意の向け方が異なります。「存じ上げる」は知っている対象となる人物を立てる働きがあり、「存じる」は自分の知識や認識を会話の相手に対して丁重に伝える働きがあります。
この分類を理解すると、なぜ人には「存じ上げる」、物事には「存じる」が自然なのかが分かります。
「存じる」の基本的な意味と使い方
「存じる」は「知る」「思う」の謙譲語です。
「知っています」という意味で使用するときは、「存じています」「存じております」という形にします。
例文:
- その件については、以前から存じております。
- 御社の新しい事業計画については存じております。
- ご紹介いただいた製品の特徴は存じております。
- その情報については、すでに存じております。
また、「存じる」には「思う」という意味もあります。
例えば「ありがたく存じます」「光栄に存じます」「適切だと存じます」などは、自分の気持ちや考えをへりくだって伝える表現です。
このように、同じ「存じる」でも、文脈によって「知っている」と「思う」の意味が変わる点に注意しましょう。
「存じ上げる」の基本的な意味と使い方
「存じ上げる」は「知る」の謙譲語Ⅰです。
主に人物について知っていることを、相手に敬意を示しながら伝える場合に使用します。
例文:
- 以前から山田様のことは存じ上げております。
- 先生のお名前はかねてより存じ上げております。
- 貴社の代表者については存じ上げております。
- その方とは以前から面識があり、よく存じ上げております。
「存じ上げております」は、人物に対する敬意を含むため、初対面の相手や目上の人について話す場合にも適しています。
ただし、人物を知っていることと、実際に会ったことがあることは別です。
名前や経歴を知っているだけなら「お名前は存じ上げております」、直接会ったことがあるなら「以前お目にかかったことがございます」など、事実に合わせて表現を選びましょう。
【比較表】存じる・存じ上げる・承知する・ご存じの違い
それぞれの表現を一度に比較すると、使い分けが理解しやすくなります。
| 表現 | 敬語の種類・働き | 主な対象 | 自然な使用例 |
|---|---|---|---|
| 存じております | 謙譲語Ⅱ(丁重語) | 物事・情報 | その件は存じております |
| 存じ上げております | 謙譲語Ⅰ | 人物 | 先生のお名前は存じ上げております |
| 承知しております | 丁重な謙譲表現 | 情報・事情・依頼内容 | 変更の件は承知しております |
| ご存じです | 尊敬語 | 相手・第三者 | 部長はご存じです |
| 知っています | 丁寧語 | 人・物事 | その情報は知っています |
| 存じません | 謙譲語Ⅱ(丁重語) | 主に物事・情報 | 詳細は存じません |
| 存じ上げません | 謙譲語Ⅰ | 人物 | その方は存じ上げません |
特に重要なのは、「存じる」と「存じ上げる」が文化庁の分類では異なる種類の謙譲語に位置付けられている点です。
「存じる」は話し相手に対して自分の認識を丁重に述べる表現、「存じ上げる」は知っている対象となる人物を立てる表現です。
なお、対象による使い分けは実務上の基本的な目安です。文章の文脈や敬意を示す相手との関係も考慮して選ぶと、より自然な日本語になります。
【敬語の基本】謙譲語・尊敬語・丁寧語の違いを理解する
「知る」の敬語を正確に使うには、謙譲語、尊敬語、丁寧語の違いを理解することも欠かせません。
文化庁の「敬語の指針」では、敬語を尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、丁寧語、美化語の5種類に整理しています。
1.謙譲語とは
謙譲語は、自分側の行為や状態をへりくだって表現することで、相手や行為の向かう先に敬意を示す言葉です。
代表例は次のとおりです。
- 言う → 申し上げる
- 聞く → 伺う
- 会う → お目にかかる
- 知る → 存じる・存じ上げる
謙譲語には、さらに2つの種類があります。
謙譲語Ⅰ
行為の向かう先となる人物を立てる表現です。
「先生にお目にかかる」「先生のことを存じ上げる」などが該当します。
謙譲語Ⅱ(丁重語)
自分側の行為や物事を、話し相手に対して丁重に述べる表現です。
「こちらの事情は存じております」「明日、担当者が参ります」などが該当します。
「存じ上げる」と「存じる」の違いを正確に理解するには、この区別が重要です。
2.尊敬語とは
尊敬語は、相手や第三者の行為、状態などを高めて表現する言葉です。
代表例は次のとおりです。
- 言う → おっしゃる
- 行く・来る → いらっしゃる
- 食べる → 召し上がる
- 知る → ご存じになる・ご存じだ
例えば、上司がその情報を知っている場合は「部長はその件をご存じです」と表現します。
自分自身について「私はその件をご存じです」と言うことはできません。
尊敬語は相手を立てる表現であり、自分を高めるための言葉ではないからです。
3.丁寧語とは
丁寧語は、相手に対して丁寧な言葉遣いをするための表現です。
代表的なものは「です」「ます」です。
例えば、次のような違いがあります。
- 知っている
- 知っています
- 存じております
「知っています」は丁寧語ですが、謙譲語ではありません。
社内の親しい同僚との会話なら問題ありませんが、取引先や目上の人に対しては「存じております」などに言い換えると、より適切な印象になります。
【ビジネスメール・会話】「存じております」「存じ上げております」の例文集
実際のビジネスシーンでは、言葉の意味を知っていても、文章にすると迷うことがあります。
ここでは、メールと会話の両方で使える具体例を紹介します。
「存じております」の例文
物事や情報を知っていることを伝える場合に使用します。
例文1:取引先へのメール
「ご案内いただきました新サービスにつきましては、以前より存じております。詳しい資料をご共有いただき、誠にありがとうございます。」
例文2:上司との会話
「はい、そのプロジェクトの概要については存じております。」
例文3:商談での返答
「御社が海外市場に進出されていることは、以前から存じております。」
例文4:既知の情報を説明する場合
「その件については存じておりますが、最新の進捗については確認が必要です。」
要点は、知っている対象が情報や事柄であることです。
「存じ上げております」の例文
人物について知っている場合に使います。
例文1:取引先の担当者について
「鈴木様のお名前は、以前より存じ上げております。」
例文2:著名な人物について
「先生のご活躍は以前から存じ上げております。」
例文3:上司との会話
「はい、先方の担当者の方については存じ上げております。」
例文4:紹介を受けた場合
「以前からお名前を存じ上げておりましたので、今回お会いできて大変光栄です。」
この表現は、相手に敬意を示しながら人物について知っていることを伝えられます。
ただし、相手を過度に持ち上げる必要はありません。通常の業務連絡では「お名前は存じ上げております」程度で十分です。
「存じます」を使った例文
「存じます」は「知る」だけでなく「思う」の謙譲語としても使われます。
- その方法が最善だと存じます。
- ご指摘のとおりかと存じます。
- 大変ありがたく存じます。
- ご多忙のことと存じますが、ご確認をお願いいたします。
- このような機会をいただき、光栄に存じます。
特にビジネスメールでは、自分の意見や感謝の気持ちを丁寧に伝えたいときに便利です。
ただし、「存じます」を何度も繰り返すと文章が堅苦しくなります。「考えております」「ありがとうございます」なども適切に組み合わせましょう。
【使い分けの重要ポイント】「存じております」と「承知しております」は何が違う?
「存じております」と「承知しております」は、どちらもビジネスでよく使われる表現です。
しかし、両者には意味の違いがあります。
存じております:情報や事柄を知っている。
承知しております:事情や内容を理解し、認識している。
「承知」には、事情などを知っていることに加えて、相手の依頼や要求を理解して受け入れるという意味もあります。
そのため、単純に知識があることを伝えるのか、相手の説明や指示を理解していることを伝えるのかによって使い分けます。
「存じております」が適している場面
以前から知っている情報や、すでに得ている知識について話す場合に適しています。
例文:
- その会社の事業内容については存じております。
- 新製品の発売については存じております。
- ご紹介いただいた方のお名前は存じております。
このように、知識や情報を持っていることが中心です。
「承知しております」が適している場面
相手から伝えられた事情や、業務上の条件、依頼内容などを理解していることを示す場合に適しています。
例文:
- 納期が変更になった件については承知しております。
- ご指摘いただいた問題点については承知しております。
- 今回の変更には追加費用が発生することを承知しております。
- ご事情については重々承知しております。
相手の説明を理解しているという意味が強くなります。
「承知いたしました」と「承知しております」の違い
この2つも混同しやすい表現です。
「承知いたしました」は、相手からの依頼や指示を受け、その内容を理解したことを伝える表現です。
一方、「承知しております」は、すでに事情や内容を認識していることを伝えます。
例文:
- 上司:「明日の会議は午後3時に変更になりました」
- 自分:「承知いたしました。予定を変更しておきます」
すでに変更を知っていた場合は、「その件については承知しております」と答えるのが自然です。
新しく伝えられた指示や依頼への返答なら「承知いたしました」が適しています。
なお、取引先からの依頼を丁重に引き受ける場合には「承りました」、特に丁寧に応対する場合には「かしこまりました」も使えます。
【尊敬語の正解】「ご存じでしょうか」の意味と正しい使い方
「ご存じ」は「知っている」の尊敬語です。
自分が知っていることを表す「存じております」とは反対に、相手や第三者が知っていることを表す場合に使用します。
例えば、上司に情報の有無を尋ねる場合は、次のように表現できます。
- この件についてご存じですか。
- 新しい制度についてご存じでしょうか。
- こちらのサービスをご存じでしょうか。
- すでに変更内容をご存じでしょうか。
「ご存じでしょうか」は失礼にならない?
「ご存じでしょうか」は、目上の人や取引先に対しても使用できる尊敬表現です。
「知っていますか」よりも丁寧で、相手の知識や認識を尊重する言い方になります。
ただし、相手によっては知識を試されているように感じる可能性もあります。
そのため、質問の目的に合わせて表現を工夫するとよいでしょう。
例えば、相手が情報を知っているか確認したい場合は、
「すでにご存じでしたら恐縮ですが、念のためご案内いたします。」
とすると、相手への配慮が伝わります。
また、初めて情報を共有する場合は、
「こちらの制度について、ご存じでしょうか。」
と尋ねることで、自然に会話を始められます。
「ご存知」と「ご存じ」はどちらが正しい?
一般的な表記としては「ご存じ」が適切です。
「存じ」は「存ずる」「存じる」に由来する表記です。
「ご存知」という漢字表記も広く見かけますが、ビジネス文書では「ご存じ」に統一しておくと安心です。
「ご存じ」と「ご承知」の違い
「ご存じ」は、相手が情報や知識を持っていることを表します。
一方、「ご承知」は、事情や条件などを理解・了承していることを表す場面で使われます。
ただし、「ご承知おきください」は相手に指示するような印象になることもあるため、目上の人に対しては「お含みおきいただけますと幸いです」「あらかじめご了承いただけますと幸いです」などの表現を選ぶと柔らかくなります。
【否定形も解説】「存じません」「存じ上げません」の正しい使い方
ビジネスでは、自分が知らないことを丁寧に伝えなければならない場面もあります。
その場合は「存じません」「存じ上げません」を使い分けます。
「存じません」は正しい敬語?
「存じません」は正しい敬語です。
文化庁の「敬語の指針」でも、「存じる」の否定形として「存じません」が示されています。
物事や情報について知らない場合に使います。
例文:
- 申し訳ございませんが、その詳細については存じません。
- その制度の変更時期については存じません。
- 現在の担当者については存じておりません。
- その情報については、まだ存じておりませんでした。
「存じません」は十分に丁寧な表現ですが、会話の流れによっては少し直接的に聞こえることもあります。
その場合は「申し訳ございませんが」「恐れ入りますが」などのクッション言葉を添えると、印象が柔らかくなります。
「存じ上げません」はどんな場合に使う?
「存じ上げません」は、人物について知らない場合に使います。
例文:
- 申し訳ございませんが、その方については存じ上げません。
- 恐れ入りますが、担当者のお名前は存じ上げておりません。
- その先生については、お名前も存じ上げませんでした。
「存じ上げません」は人物を対象とする表現です。
そのため、場所や商品、制度などについて知らない場合に使うと不自然になります。
例えば、次の使い分けが自然です。
- × その製品については存じ上げません。
- ○ その製品については存じません。
- ○ その製品については存じておりません。
「存じておりません」と「存じ上げません」の違い
「存じておりません」は物事や情報について知らないことを伝える表現です。
「存じ上げません」は人物について知らないことを伝える表現です。
どちらもビジネスメールで使えますが、対象を意識して選ぶことが大切です。
また、知らないことを伝えるだけで終わらず、次の対応を添えると仕事上のコミュニケーションが円滑になります。
例文:
「申し訳ございませんが、詳細については存じておりません。担当部署に確認のうえ、改めてご連絡いたします。」
このように、情報が不足していることと今後の対応をセットで伝えると、丁寧で誠実な印象になります。
【プロの結論】ビジネスで失敗しない「知る」の敬語の選び方
「知る」の敬語は、難しい表現を覚えることよりも、誰について何を伝えるのかを整理することが大切です。
実際のビジネスシーンでは、次の3つを判断基準にすると迷いにくくなります。
判断基準1:知っている対象は人か、物事か。
人物なら「存じ上げております」、情報や事柄なら「存じております」を基本にします。
判断基準2:単に知っているのか、理解・了承しているのか。
知識や情報を持っていることを伝えるなら「存じております」、依頼や事情を理解していることを伝えるなら「承知しております」が適しています。
判断基準3:自分について述べるのか、相手について述べるのか。
自分が知っていることなら「存じております」、相手が知っていることなら「ご存じです」とします。
特に注意したいのは、敬語を必要以上に重ねないことです。
長い敬語表現が必ずしも丁寧とは限りません。文化庁の「敬語の指針」でも、敬語は相互尊重を基本として、状況や相手との関係に応じて適度に使うことが示されています。
ビジネスメールでは、正確な意味を伝えられる表現を選び、簡潔で読みやすい文章に仕上げることが大切です。
【知るの謙譲語】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「知る」の謙譲語は「存じる」と「存じ上げる」のどちらですか?
A1:どちらも正しい謙譲表現です。物事や情報を知っている場合は「存じております」、人物について知っている場合は「存じ上げております」を基本に使い分けます。文化庁の分類では、前者の「存じる」は謙譲語Ⅱ、後者の「存じ上げる」は謙譲語Ⅰです。
Q2:「存じております」と「承知しております」は同じ意味ですか?
A2:完全に同じではありません。「存じております」は情報や事柄を知っていること、「承知しております」は事情や依頼内容などを理解・認識していることを表します。新しい依頼を受けた場合は「承知いたしました」が自然です。
Q3:「ご存じでしょうか」は目上の人に使っても大丈夫ですか?
A3:問題ありません。「ご存じ」は「知っている」の尊敬語です。目上の人や取引先に知識や情報の有無を尋ねる場合に使用できます。「すでにご存じでしたら恐縮ですが」といった表現を添えると、さらに配慮が伝わります。
Q4:「存じません」は失礼な表現ですか?
A4:失礼な表現ではありません。正しい謙譲表現です。物事や情報について知らないことを伝える場合に使用します。人物について知らない場合は「存じ上げません」を使います。
Q5:「知っています」をビジネスメールで使うのは間違いですか?
A5:「知っています」は丁寧語なので、文法的に間違いではありません。ただし、取引先や目上の人に対しては「存じております」「存じ上げております」などを使うと、より丁寧な印象になります。
Q6:「存じ上げております」は二重敬語ですか?
A6:一般に二重敬語とは扱いません。「存じ上げる」という謙譲語Ⅰと、「おる」による丁重な表現を組み合わせた形です。文化庁の敬語の分類を踏まえても、適切な敬語表現として使用できます。
まとめ:「知る」の謙譲語は対象と意味で正しく使い分けよう
「知る」の謙譲語には「存じる」と「存じ上げる」があり、どちらもビジネスシーンで使用できる正しい表現です。
最後に、覚えておきたい使い分けを整理します。
- 存じております: 物事や情報を知っている。
- 存じ上げております: 人物について知っている。
- 承知しております: 事情や内容を理解・認識している。
- 承知いたしました: 相手の依頼や指示を理解した。
- ご存じです: 相手や第三者が知っている。
- 存じません: 物事や情報について知らない。
- 存じ上げません: 人物について知らない。
2026年のビジネスコミュニケーションでも、こうした敬語の基本は変わりません。
大切なのは、形式的に難しい言葉を使うことではなく、相手と話題に合わせて適切な敬意を示すことです。
「存じる」「存じ上げる」「承知する」「ご存じ」の違いを理解しておけば、ビジネスメールや会議、取引先との会話でも、自然で失礼のない日本語を使えるようになります。
主な根拠資料: 文化庁・文化審議会「敬語の指針」、Indeedキャリアガイド「『存じます』の意味と使い方」、マイナビニュース「『存じております』と『存じ上げております』の違い」。