2026年のスエズ運河通行料は、船舶の種類やスエズ運河純トン数(SCNT)、積載状態、航行方向によって変わる。加えて、2026年7月15日からは多くの船種で追加サーチャージが改定され、原油タンカーの積載船には37%、バラスト船には27%の割増が適用されている。コンテナ船にも12%の追加料金が設定された。
一方、通行料とは別に、2026年5月15日から適用された3,800ドル・2,350ドルのサービス料や、2027年1月31日まで延長された特定海域の係留・停泊料金もある。これらは適用対象も計算基準も異なる。2026年11月3日時点のスエズ運河庁(SCA)の公式通達と航行規則を基に、料金の仕組み、日本円での支払い、割引制度まで整理する。
【まず結論】スエズ運河通行料はいくら?船によって料金が違う理由

スエズ運河の通行料には、一律の料金設定がない。
エジプトのスエズ運河庁(Suez Canal Authority、SCA)が管理する通航料金表では、船舶の種類とSCNTの区分を組み合わせて基本料金を決定する。
同じコンテナ船でも、船のSCNTが違えば基本料金は変わる。また、原油タンカーや石油製品タンカーでは、積載している状態とバラスト状態でも料金が異なる。
さらに2026年7月15日以降は、基本通行料に加えて船種別の追加サーチャージが適用される。
つまり、実際の請求額を把握するには、基本料金だけでなく追加料金やサービス料まで確認する必要がある。
通行料を左右する4つの条件
主な判断要素は次の4つだ。
1. 船種: コンテナ船、原油タンカー、LNG船、ばら積み船、自動車運搬船など。
2. SCNT: スエズ運河独自の純トン数。基本料金の算定に使われる。
3. 積載状態: 積載船(Laden)か空荷状態のバラスト船(Ballast)か。
4. 航行方向: 特に自動車運搬船では北航と南航で追加料金が異なる。
注意したいのは、船の大きさを示す総トン数(GT)とSCNTは同じ数値ではないことだ。料金計算に使用する指標を取り違えると、見積もりそのものが変わってしまう。
【計算方法を解説】SCNT・船種・積載状態から基本料金を算出する仕組み
1. SCNTとは何か
SCNTは「Suez Canal Net Tonnage」の略称で、日本語ではスエズ運河純トン数と呼ばれる。
SCAの航行規則第92条では、通行料や追加料金の算定に使用するトン数について、1873年のコンスタンティノープル国際委員会で定められた測定方式に基づく純トン数を規定している。
その数値は、各国の権限ある当局などが発行する専用の証明書に記載される。
一般的な国際総トン数(GT)や載貨重量トン数(DWT)を、そのままSCNTとして使用することはできない。
2. 基本料金はSCNTの段階別料率で決まる
SCAの公式通航料金表は、縦方向に船舶の種類、横方向にSCNTの区分を配置した構成になっている。
料金表ではSCNTの規模に応じて複数の段階が設けられ、それぞれの区分に対応する料率が適用される。
したがって、船の大きさだけで単純に料金を計算するのではなく、対象船種の料金区分とSCNT証明書を照合する必要がある。
3. 特別引出権(SDR)を使って通貨換算する
スエズ運河の基本通行料は、特別引出権(SDR)を基準として設定されている。
SDRは国際通貨基金(IMF)が管理する国際準備資産であり、通常のドル建て料金と同じ考え方で固定されているわけではない。
SCAの航行規則第105条によれば、SDRを基準に算出された料金は、IMFが公表する最新の為替換算情報に従って、認められた決済通貨で支払う。
4. 実際の計算手順
通行料を見積もる場合、基本的には次の順序で確認する。
- 船舶の種類を特定する。
- SCNT証明書から対象となる純トン数を確認する。
- 積載状態と航行方向を確認する。
- SCAの通航料金表から基本料金を算出する。
- 該当する追加サーチャージを加える。
- SDRから指定決済通貨へ換算する。
- サービス料やその他の適用料金を加える。
例えば、通常の通行料をXとすると、原油タンカーの積載船は、基本料金に37%を加算するため、追加料金を含む通行料はX×1.37となる。
バラスト状態の原油タンカーならX×1.27だ。
ただし、コンテナ船は別の注意が必要になる。2026年の12%サーチャージは、通常通行料だけでなく、甲板上のコンテナ段階別追加料金を含む合計額を基準として計算する。
このため、コンテナ船に単純に基本料金の1.12倍を適用するだけでは、正確な見積もりにならない場合がある。
【2026年7月15日改定】船種別の追加サーチャージ一覧と割増率
2026年の大きな変更点は、SCAが2026年6月7日付で複数の航行通達を発行し、7月15日から船種別の追加サーチャージを変更したことだ。
対象には原油タンカー、石油製品タンカー、LPG船、LNG船、化学タンカー、ばら積み船、コンテナ船、自動車運搬船などが含まれる。
国際海運会議所(ICS)が2026年6月にまとめた資料でも、改定後の割増率が整理されている。
2026年7月15日以降の船種別料金
| 船種 | 積載状態・航行方向 | 追加サーチャージ |
|---|---|---|
| 原油タンカー | 積載船 | 37% |
| 原油タンカー | バラスト船 | 27% |
| 石油製品タンカー | 積載船 | 37% |
| 石油製品タンカー | バラスト船 | 27% |
| LPG船 | 積載・バラスト | 32% |
| LNG船 | 積載・バラスト | 19% |
| 化学タンカー・その他液体バルク船 | 積載・バラスト | 32% |
| ドライバルク船 | 積載・バラスト | 22% |
| コンテナ船 | 積載・バラスト | 12% |
| 一般貨物船・多目的船・重量物運搬船 | 積載・バラスト | 26% |
| Ro-Ro船 | 積載・バラスト | 26% |
| 自動車運搬船 | 北航 | 26% |
| 自動車運搬船 | 南航 | 12% |
| 特殊浮体施設 | 積載・バラスト | 26% |
| その他の船舶 | 積載・バラスト | 26% |
※割増率は原則として通常のスエズ運河通行料に対する追加率。コンテナ船については、甲板上コンテナの段階別追加料金を含む合計額が計算基準となる。
原油タンカーは積載37%・バラスト27%
今回の改定で特に注目されるのが原油タンカーだ。
SCAの2026年6月7日付Periodical No.16/2026によって、原油タンカーの割増率は次のように変更された。
- 積載船:従来の25%から37%へ変更。
- バラスト船:従来の15%から27%へ変更。
どちらも12ポイントの引き上げとなる。
石油製品タンカーについても、Periodical No.17/2026で同じ37%・27%の料金体系に改定された。
この割増料金は両方向の通航に適用される。
コンテナ船には12%の追加料金
コンテナ船については、SCA Circular No.2/2026が2026年6月7日に発行された。
2026年7月15日以降、積載船とバラスト船の双方に12%のサーチャージが適用される。
ここで重要なのは、コンテナ船には甲板上に積まれたコンテナ数に応じた従来の段階別追加料金も存在することだ。
つまり、12%だけを確認して見積もるのではなく、甲板上のコンテナの積載状況も含めて計算しなければならない。
自動車運搬船は北航と南航で異なる
自動車運搬船(Vehicle Carrier)は、今回の改定で航行方向による料金差が明確になっている。
- 北航:26%
- 南航:12%
SCAのPeriodical No.24/2026による変更で、北航の割増率は従来の14%から26%に引き上げられた。
一方、南航は12%の設定となっている。
自動車運搬船は積載状態だけで料金を判断できない。航行方向も必ず確認したい。
積載船とバラスト船では何が違う?
積載船とは貨物を積んで航行する船舶、バラスト船とは貨物を積最初に、船体の安定を保つためのバラスト水などを積んで航行する船舶を指す。
原油タンカーでは、積載船とバラスト船で追加料金が10ポイント異なる。
ただし、すべての船種が同じように積載状態による割増率の差を持つわけではない。LPG船やLNG船、ドライバルク船などは、今回の改定後の割増率が積載・バラストの双方で同じ設定になっている。
また、SCAの通航料金表には、バラスト状態の石油製品タンカーや油・化学タンカーに関する料金区分上の特別な取り扱いも定められている。
船種の名称だけで判断せず、実際の船舶状態と適用料金区分を照合することが欠かせない。
【別料金に注意】サービス料3,800ドル・2,350ドルと2027年1月31日の適用期間
通行料を調べる際に混同しやすいのが、2026年5月に導入されたサービス料だ。
これは通常の運河通行料や7月15日からの追加サーチャージとは別の料金である。
2026年5月15日からサービス料を改定
SCAは2026年5月5日付のCircular No.1/2026で、係留サービスや照明サービスに関する新たな運用ルールとサービス料を定めた。
適用開始日は2026年5月15日。
サービス料は船舶の総トン数(GT)によって区分される。
| 船舶の総トン数 | サービス料 |
|---|---|
| 2,500GT以上 | 3,800米ドル |
| 2,500GT未満 | 2,350米ドル |
この料金は一括料金として設定されている。
特に注意したいのは、ここで使用する基準がSCNTではなくGTである点だ。
基本通行料の計算ではSCNTを使い、サービス料の区分ではGTを使う。両者を混同すると、見積もりの段階で誤差が生じる。
照明設備にも注意が必要
同通達では、船舶がSCAの航行規則に適合するサーチライトを自ら用意することも定められている。
設備がない場合や規格に適合しない場合には、1回の通航につき500米ドルの罰金が課される。
したがって、サービス料だけでなく、船内設備の適合状況も事前に確認したい。
2027年1月31日まで延長された料金措置とは?
もう一つ、2026年の料金情報で誤解されやすいのが2027年1月31日という日付だ。
SCAは2026年2月24日付のPeriodical No.1/2026で、南部区域の停泊地(V AREA)において物流作業を行い、エル・アダビーヤ港へ向かう船舶の係留・停泊料金について部分的な変更を実施した。
この措置は2026年2月1日から6か月間を対象としていた。
その後、2026年9月7日付のPeriodical No.28/2026によって、同措置の全規定がさらに6か月延長された。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 当初の適用開始 | 2026年2月1日 |
| 当初の適用期間 | 6か月 |
| 延長通達 | Periodical No.28/2026 |
| 延長開始 | 2026年8月1日 |
| 延長終了 | 2027年1月31日 |
| 対象 | 南部V AREAで物流作業を行い、エル・アダビーヤ港へ向かう船舶 |
| 料金の基準 | 国際総トン数(IGT)と停泊日数 |
この係留・停泊料金の変更では、国際総トン数1トン当たり1日0.05米ドルという料金が示されている。
ここで押さえておきたいのは、2027年1月31日は通常のスエズ運河通行料や7月15日改定の追加サーチャージ全体の適用終了日ではないということだ。
特定の停泊区域で物流作業を行う船舶に関係する別制度の延長期限である。
この違いを理解しておけば、2027年1月末にすべてのスエズ運河通行料金が終了するといった誤解を避けられる。
【日本円で支払える?】SDR換算・決済通貨と実際の支払い方法
日本の海運会社や船主にとって気になるのが、日本円での決済が可能かどうかだ。
結論からいえば、日本円での支払いは認められている。
SCAの公式通航料金表と航行規則第105条では、通行料の決済に使用できる通貨として、以下を挙げている。
- 米ドル(USD)
- 英ポンド(GBP)
- ユーロ(EUR)
- 日本円(JPY)
- カナダドル(CAD)
- スウェーデンクローナ(SEK)
- デンマーククローネ(DKK)
- ノルウェークローネ(NOK)
- スイスフラン(CHF)
- 中国人民元(CNY)
日本円が認められているため、日本企業が必ずしも米ドルで決済しなければならないわけではない。
SDRと日本円の換算はどう行われる?
通行料の基準はSDRである。
支払う際には、IMFが公表する最新のSDRに対する各通貨の換算情報に従って金額が計算される。
そのため、同じSCNT、同じ船種、同じ割増率であっても、決済通貨による換算額は異なる可能性がある。
また、決済通貨はSCAに提出する統計申告書で申告する必要がある。
日本円での決済を希望する場合は、船舶代理店と事前に通貨指定や換算条件を確認しておきたい。
支払いのタイミングにも注意
SCAの航行規則では、通行料は船舶の通航前に、認可された代理店を通じて銀行口座を利用して支払う仕組みとなっている。
したがって、通航後に料金を調べて精算するという流れではない。
実務では、船舶の諸元、SCNT、積載状況、通航予定日などを代理店に提出し、事前に見積書や精算予定額を確認することになる。
【割引・リベート制度】スエズ運河の通行料を抑える方法と注意点
スエズ運河庁は、船舶の利用を促進するため、複数のマーケティング政策やリベート制度を用意している。
公式サイトでは、次のような制度が紹介されている。
- Long Haul Rebate System(長距離航路リベート制度)
- Tolls Permanent Reductions(恒久的な通行料引き下げ)
- Cargo Incentive Rebate Policy(LNG貨物インセンティブ)
- SUMEDパイプラインとの協力制度
- Time Saving Service(時間短縮サービス)
ただし、すべての船舶が自動的に割引を受けられるわけではない。
Long Haul Rebate Systemの仕組み
長距離航路リベート制度は、一定の航路条件などを満たした船舶に対して、通行料の一部を払い戻す仕組みだ。
SCAの公式条件では、申請に関して次のような規定がある。
1. 船舶の出発港から出航する少なくとも48時間前に申請する。
2. SCAからの最初の回答日から70日間、承認されたリベートの有効期間がある。
3. 通航時には通常の通行料を全額支払う。
4. 通航後、必要書類を提出して払い戻しを受ける。
5. 必要書類は通航翌日から1年以内に提出する。
必要書類には、出発港の証明書、到着港の証明書、払い戻し請求書などが含まれる。
また、出発港と到着港の間で商業目的の中間寄港を行った場合などは、リベートの対象から外れる可能性がある。
リベートは承認後も最終確定ではない
SCAのリベート利用条件では、承認された割引についても、航海終了後に航路や寄港地、航行期間、必要書類などを確認したうえで変更・取消しが行われる可能性がある。
つまり、見積書にリベートが記載されているからといって、払い戻しが無条件で保証されるわけではない。
船主や運航会社は、申請条件だけでなく、書類の提出期限や航海実績との整合性まで確認する必要がある。
【プロの結論】料金比較では通行料だけを見てはいけない
スエズ運河の利用を検討する際、最も重要なのは通行料単独ではなく、航海全体の費用を比較することだ。
例えば、アジアと欧州を結ぶ航路では、スエズ運河を利用する場合と喜望峰を経由する場合で、航海距離、燃料消費量、所要日数、保険料、運航スケジュールなどが変わる。
したがって、通行料が上昇したからといって、必ずしも喜望峰経由のほうが安くなるとは限らない。
実際の判断では、次の項目を同じ条件で比較することが望ましい。
- 基本通行料と追加サーチャージ
- 係留・照明などのサービス料
- 追加の港湾関連費用
- 燃料費と乗組員関連費用
- 保険料と航行リスク
- 航海日数と貨物の納期
- 適用可能なリベート
特に2026年は、7月15日の割増率改定と5月15日のサービス料金変更が重なっている。過去の見積書をそのまま使うと、現在の費用を正確に把握できない可能性がある。
船主や運航会社にとっては、通航予定日に有効な通達を確認し、最新のSCNT証明書と船舶状態に基づく見積もりを取得することが、最も実務的な対応となる。
【スエズ運河通行料】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:スエズ運河の通行料は1隻いくらですか?
A1:船舶ごとに異なるため、一律の金額はない。船種、SCNT、積載状態、適用されるサーチャージによって決まる。正確な金額を把握するにはSCAの公式料金表や通行料計算ツールを利用する必要がある。
Q2:2026年7月15日から原油タンカーの通行料はいくら上がりましたか?
A2:積載状態の原油タンカーは通常通行料に対して37%、バラスト状態では27%の追加サーチャージが適用される。改定前はそれぞれ25%と15%だった。
Q3:コンテナ船の追加料金は12%だけですか?
A3:12%のサーチャージに加え、甲板上に積載したコンテナ数に応じた段階別追加料金も計算に含まれる。12%の計算基準には、この段階別追加料金を含む通行料合計が使用される。
Q4:日本円でスエズ運河通行料を支払えますか?
A4:支払える。日本円はSCAが認める決済通貨の一つである。SDRを基準とした金額を、IMFの最新換算情報に従って日本円に換算する。
Q5:3,800ドルと2,350ドルのサービス料は何の料金ですか?
A5:2026年5月15日から適用された係留・照明サービスに関する一括料金だ。2,500GT以上の船舶は3,800ドル、2,500GT未満は2,350ドルとなる。通常の通行料とは別に確認する必要がある。
Q6:2027年1月31日でスエズ運河の追加料金は終了しますか?
A6:すべての追加料金が終了するわけではない。この日付は、南部V AREAで物流作業を行い、エル・アダビーヤ港へ向かう船舶の係留・停泊料金に関する措置の延長期限である。7月15日からの船種別サーチャージとは別の制度だ。
Q7:スエズ運河の割引は誰でも利用できますか?
A7:誰でも自動的に利用できるわけではない。長距離航路リベートやLNG貨物インセンティブなど、それぞれの制度に定められた航路・貨物・申請条件を満たす必要がある。
まとめ:2026年のスエズ運河通行料は船種・SCNT・追加料金の確認が重要
2026年のスエズ運河通行料を正確に把握するには、基本料金と追加料金を分けて考える必要がある。
基本料金はSCNTと船種別の料金表によって決まり、2026年7月15日からは多くの船種で新しいサーチャージが適用された。原油タンカーの積載船37%・バラスト船27%、コンテナ船12%、自動車運搬船の北航26%・南航12%などが代表的な変更点だ。
また、2026年5月15日からのサービス料3,800ドル・2,350ドルは別料金であり、2027年1月31日まで延長された南部停泊区域の料金措置とも混同してはならない。
日本円での決済が可能であることや、Long Haul Rebate Systemなどの割引制度が用意されていることも、費用を管理するうえで押さえておきたいポイントだ。
最終的な見積もりでは、船舶のSCNT、GT、船種、積載状態、航行方向、通航予定日を揃え、SCAの最新通達と照合することが欠かせない。特に2026年の追加料金は市場環境に応じて変更・取消しとなる可能性があるため、過去の料金表ではなく、通航時点で有効な規定を基準に判断することが重要だ。