延命治療を拒否する意思を持っていても、実際に家族へ伝えるとなると難しさを感じる人は多い。
特に、親と子ども、夫婦、きょうだいの間で「できるだけ長く生きてほしい」「本人が望まない治療は受けさせたくない」という考え方が異なると、話し合いが進まなくなることもある。
こうした問題を解決するために活用したいのがACP(人生会議)だ。
人生会議はいつ、誰と始めればよい?
人生会議を始めるのに、特定の年齢や病気の診断は必要ない。
健康なうちから、自分の価値観や希望について家族、友人、医療・介護関係者と話し合うことができる。
例えば、次のような質問から始めるとよい。
- 自分で食事や会話ができなくなった場合、どのような生活を望むか。
- 意識の回復が見込めない場合、人工呼吸器による生命維持を希望するか。
- 心停止時に心肺蘇生を受けたいか。
- 痛みや苦しさを軽減する治療をどこまで希望するか。
- 最期を迎える場所として、自宅、病院、介護施設のどこを希望するか。
- 自分で判断できなくなったとき、誰に希望を伝えてほしいか。
大切なのは、家族に結論を押し付けることではない。自分が大切にしていることを理解してもらい、もしものときに本人の希望を尊重できるようにすることだ。
2022年度の厚生労働省調査から見える課題
厚生労働省が公表している令和4年度の人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査では、一般国民3,000人を対象にした結果として、家族や医療・介護従事者との話し合いについて、次の数字が示されている。
| 話し合いの状況 | 割合 |
|---|---|
| 詳しく話し合っている | 1.5% |
| 一応話し合っている | 28.4% |
| 話し合ったことはない | 68.6% |
| 無回答 | 0.8% |
出典:厚生労働省「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」。一般国民3,000人を対象とした調査。
この結果から読み取れるのは、人生の最終段階に受けたい医療について、十分な話し合いができていない人が多いという現状だ。
延命治療の問題は、病気になってから突然家族に相談するよりも、健康なときから少しずつ話し合っておくほうが、本人の希望を共有しやすい。
家族が延命治療拒否に反対したらどうする?
家族が反対する背景には、さまざまな感情がある。
例えば、次のような考え方だ。
- 「少しでも長く生きていてほしい」
- 「治療をやめることに罪悪感がある」
- 「本人が本当に望んでいることなのか確信できない」
- 「自分が判断した結果、家族を亡くすことになるのが怖い」
こうした感情は、本人を大切に思う気持ちから生まれることもある。
そのため、最初から家族を説得しようとするのではなく、本人がなぜその意思を持っているのかを説明することが重要だ。
例えば、「延命治療を受けたくない」という言葉だけではなく、次のように具体的に伝えると理解を得やすくなる。
「回復できる病気の治療は受けたい。ただ、意識の回復が見込めず、自分の希望する生活に戻れない状態で、人工呼吸器による生命維持だけを続けることは望んでいない。苦痛を和らげる治療は受けたい」
このように、拒否したい医療と希望する医療をセットで説明すると、家族も本人の考えを理解しやすい。
本人の意思と家族の意見が対立した場合
本人に意思決定能力があり、自分の希望を明確に伝えられる場合は、本人の意思が基本となる。
一方、本人が意識不明などで意思表示できない場合には、事前指示書やACPの記録を確認し、家族等と医療・ケアチームが本人の意思を推定する。
ここで重要なのは、家族自身が望む治療と、本人が望んでいた治療を混同しないことだ。
厚生労働省のガイドラインでは、本人の意思を推定できる場合はその意思を尊重し、推定できない場合は家族と十分に話し合って本人にとって最善の方針を検討することを示している。
家族の中で意見がまとまらない場合や、医療チームとの間で合意できない場合には、複数の専門家からなる委員会を設置して検討・助言を受けることも想定されている。
2026年の4学会合同ガイドラインでも、臨床倫理コンサルテーションチームや臨床倫理委員会などに相談する方法が示された。
家族の反対があるからといって、話し合いを諦める必要はない。主治医、看護師、医療ソーシャルワーカーなどにも相談しながら、本人の意思を中心に考えることが大切だ。
【6】延命措置の差し控え・中止と積極的安楽死は何が違う?

延命治療拒否を考える際、特に誤解されやすいのが「治療の差し控え」「治療の終了」「安楽死」の違いだ。
これらは医療倫理や法律に関わる重要な概念であり、混同してはいけない。
延命措置の差し控えとは?
差し控えとは、生命維持治療を新たに開始しないことを指す。
例えば、回復の見込みがないと医学的に判断され、本人の意思や医療・ケアチームとの話し合いに基づいて、人工呼吸器を新たに装着しないという方針を決める場合が該当する。
延命措置の中止・終了とは?
すでに実施している生命維持治療について、適切な意思決定プロセスを経て終了することだ。
例えば、人工呼吸器を使用している患者について、治療の継続が本人の価値観や医学的・倫理的な観点から適切ではないと判断され、治療の終了が検討される場合がある。
2026年9月公表の4学会合同ガイドラインでは、誤解を避けるため、従来の「中止」という表現ではなく「生命維持治療の終了」という表現を採用している。
これは、生命維持治療を終了しても、すべての医療やケアが終わるわけではないことを明確にするためでもある。
積極的安楽死との違い
積極的安楽死とは、薬物などを用いて生命を短縮させることを意図する行為を指す。
一方、生命維持治療の差し控えや終了は、本人の意思、医学的妥当性、倫理的な検討を踏まえ、治療・ケアの目標を見直すことに位置付けられる。
目的は生命を積極的に短縮することではなく、病気や傷害の自然な経過を受け入れ、本人にとって望ましい医療とケアを実現することにある。
厚生労働省のガイドラインも、生命を短縮させる意図を持つ積極的安楽死は対象外としている。
2026年の4学会合同ガイドラインの説明文でも、生命維持治療の終了・差し控えと安楽死は異なるものとして整理され、「消極的安楽死」という表現を使用しない方針が示された。
延命治療を終了しても緩和ケアは続く
ここで忘れてはならないのが、緩和ケアの存在だ。
生命維持治療を終了・差し控えることは、患者を見放すことではない。
痛み、息苦しさ、不安などの症状を和らげるための治療やケアは継続される。
2026年の新指針では、生命維持治療の終了・差し控えを検討する段階から、緩和ケアを適切に提供することの重要性が強調されている。
つまり、延命を目的とした治療を希望しない場合でも、苦痛を減らし、その人らしい時間を過ごすための医療を受けることができる。
「延命を望まないこと」と「必要なケアを受けないこと」は、まったく違う。
この区別を本人、家族、医療関係者が共有することが、納得できる意思決定につながる。
【延命治療拒否】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:延命治療を拒否する意思は、口頭で伝えるだけでも有効ですか?
口頭で意思を伝えることも大切だが、将来自分で意思表示できなくなった場合に備えるなら、書面に残すことが望ましい。家族や代理判断者、かかりつけ医にも共有し、診療記録に残してもらうと意思を確認しやすくなる。
Q2:延命治療を拒否する書類は、どこで作成できますか?
厚生労働省の人生会議関連資料や、地域の医師会などが提供する事前指示書の様式を参考にできる。かかりつけ医や地域包括支援センターに相談する方法もある。全国一律の法定様式があるわけではないため、医療機関と内容を確認しながら作成したい。
Q3:家族が反対していても延命治療を拒否できますか?
本人に意思決定能力があり、十分な説明を受けたうえで意思を示している場合は、本人の意思が基本となる。本人が意思表示できない場合には、過去の発言や事前指示書、ACPの記録などを参考に本人の意思を推定する。家族間で意見が対立した場合は、医療チームや臨床倫理委員会などに相談できる。
Q4:DNARを伝えれば人工呼吸器や胃ろうも拒否したことになりますか?
ならない。DNARは心停止時の心肺蘇生を行わないという指示であり、人工呼吸器、胃ろう、点滴、抗菌薬などの治療方針は別に検討する必要がある。それぞれの希望を個別に伝えることが重要だ。
Q5:一度装着した人工呼吸器を後から外すことはできますか?
生命維持治療の終了が検討される場合はある。ただし、本人の意思、病状、治療の効果、医学的・倫理的妥当性などを踏まえ、医療・ケアチームと患者・家族等による適切な意思決定プロセスが必要になる。単に事前指示書があるという理由だけで自動的に取り外されるわけではない。
Q6:延命治療を拒否すると痛み止めや緩和ケアも受けられなくなりますか?
そのようなことはない。生命維持治療を希望しない場合でも、痛みや呼吸困難、不安などを軽減するための治療やケアを希望できる。緩和ケアは延命治療の終了・差し控え後も重要な役割を持つ。
まとめ:延命治療拒否で後悔しないために大切な判断基準
延命治療拒否は、単に「延命をしない」と宣言することではない。
自分がどのような状態で、どのような医療を受けたいのか、何を望最初に、何を大切にしたいのかを整理する意思決定の問題だ。
2026年9月28日に公表された4学会合同ガイドラインは、救急・集中治療の現場における生命維持治療の終了・差し控えについて、患者の価値観を尊重した共同意思決定と緩和ケアの重要性を示している。
厚生労働省が推進する人生会議(ACP)も、本人の意思を家族や医療・ケアチームと繰り返し共有することを重視している。
【プロの結論】意思表示で押さえたい5つのポイント
1. 拒否する医療を具体的に決める: 人工呼吸器、心肺蘇生、胃ろう、点滴などを個別に検討する。
2. 拒否する条件を明確にする: 回復可能な病気の治療と、回復が見込めない状態での長期的な生命維持を区別する。
3. 書面に残して共有する: リビングウィルや事前指示書を作り、家族やかかりつけ医に伝える。
4. 家族と人生会議を行う: 自分の価値観を説明し、意思表示できなくなったときに備える。
5. 緩和ケアについても希望を伝える: 延命を希望しない場合でも、苦痛を和らげる医療やケアを受ける意思を明確にする。
延命治療を受けるかどうかに、すべての人に共通する正解はない。
積極的な治療によって少しでも長く生きたい人もいれば、回復の見込みがない状態では苦痛を減らし、自分らしく過ごす時間を大切にしたい人もいる。
大切なのは、本人が十分な情報を得て、自分の価値観に沿った選択をし、その希望が家族や医療関係者に伝わる状態をつくることだ。
延命治療拒否を考えることは、生きることを諦めることではない。自分が望む医療と人生の過ごし方を、元気なうちから考えておくことなのである。
※本記事は2026年10月31日時点の公的指針・医学関連資料に基づく一般的な情報です。実際の治療の開始・終了や法的判断は、個別の病状や意思決定能力、医療機関の体制によって異なります。具体的な選択については主治医や医療・ケアチームにご相談ください。
主な参考資料・公的情報
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)
- 日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会・日本緩和医療学会「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」(2026年9月28日公表)
- 日本集中治療医学会「DNAR指示のあり方についての勧告」
- 日本医師会「医の倫理の基礎知識 2018年版」
- 日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」
- 厚生労働省「人生会議(ACP)に関する資料・意識調査」