生活保護を受けている人でも、結婚することはできます。生活保護法には、受給者の婚姻を禁止する規定はなく、結婚したという理由だけで自動的に保護が打ち切られるわけではありません。
ただし、結婚後の生活保護の受給継続は、配偶者の収入、同居の有無、生計の実態、世帯認定によって変わります。夫婦が同じ世帯として認定されれば、原則として配偶者の給与や年金なども世帯収入として審査され、世帯全体の最低生活費との差額によって保護費が再計算されます。
2026年11月現在、厚生労働省の生活保護制度と令和8年度の生活扶助基準を踏まえると、結婚を考えている受給者が押さえるべきなのは、婚姻届の提出そのものよりも、婚姻後の家計と世帯構成の変化です。届出義務や別居時の判断、受給が継続する条件まで、制度の仕組みを整理します。
【結論】生活保護を受けていても結婚できる?婚姻後も受給を続けられる条件

生活保護受給者が結婚すること自体に、制度上の禁止はありません。受給中に婚姻届を提出して法律上の夫婦になっても、それだけで生活保護の資格を失うわけではありません。
重要なのは、結婚後にどのような生活を送るのかという点です。厚生労働省が定める生活保護制度では、原則として世帯単位で保護の必要性を判断します。そのため、結婚によって世帯構成や収入、住居費などが変われば、保護費の変更が検討されます。
結婚後も生活保護を受給できるケース
例えば、受給者と配偶者が同居を始めたものの、配偶者も収入が少なく、夫婦の収入を合計しても世帯の最低生活費に届かない場合です。
この場合、配偶者の収入を含めて再計算した結果、最低生活費に不足があれば、生活保護の継続が認められる可能性があります。
また、配偶者が病気や障害などによって働くことが難しい場合や、就労していても十分な収入を得られない場合も、世帯全体の状況によっては受給が継続します。
結婚によって生活保護が停止・廃止されるケース
反対に、配偶者が安定した収入を得ており、夫婦の認定収入が結婚後の最低生活費を上回る場合は、生活保護を必要としないと判断される可能性があります。
このとき、福祉事務所は生活保護法第26条に基づき、保護の停止または廃止を決定します。婚姻そのものが停止理由なのではなく、婚姻後の世帯が経済的に最低生活を維持できるかどうかが判断の基準です。
つまり、結婚後の生活保護には、次の3つの可能性があります。
- 世帯収入が最低生活費を下回るため、保護が継続する。
- 配偶者の収入が増えたことで保護費が減額される。
- 世帯収入が最低生活費を上回り、保護が停止または廃止される。
結婚を理由に一律に受給資格を失うという理解は正確ではありません。受給継続の可否は、夫婦の生活実態と経済状況を踏まえて判断されます。
【世帯認定の仕組み】同居・別居によって生活保護の扱いはどう変わる?
生活保護と結婚を考えるうえで、特に重要なのが世帯認定です。
生活保護法第10条は、保護の要否や程度を原則として世帯単位で決定すると定めています。つまり、本人だけの収入を確認するのではなく、同一世帯と認定された人たちの収入や生活状況をまとめて判断する仕組みです。
同居して家計を一つにする場合
結婚後、夫婦が同じ住宅に住み、食費や光熱費、家賃などを共同で負担する場合は、原則として同一世帯として認定されます。
例えば、生活保護を受けている人が、会社員として働く配偶者と同居する場合、配偶者の給与収入も世帯全体の収入として審査されます。
本人が生活保護を受けていたとしても、配偶者の収入を無関係として扱うことはできません。
結婚しても別居している場合
別居している夫婦については、住所が異なるという理由だけで必ず別世帯になるわけではありません。
厚生労働省の生活保護実施要領では、同じ住居に住んでいなくても、同一世帯として認定する場合が示されています。
例えば、配偶者が仕事の都合で単身赴任している場合や、夫婦間に生活保持義務関係があり、一時的に別の場所で生活している場合などです。
そのため、住民票を別々にしていることや、銀行口座を分けていることだけで、生活保護上の世帯が分離されるとは限りません。
別居によって別世帯として扱われる可能性
一方、夫婦がそれぞれ独立した生活の本拠を持ち、家計も別々で、実際に経済的な援助を行っていない場合などは、生活実態を踏まえて世帯認定が検討されます。
ただし、法律上の夫婦には扶養義務があり、単なる生活費の分離や別住所だけで判断できるものではありません。婚姻関係の実態や別居に至った事情、生活費の援助、交流状況なども関係します。
世帯分離も例外的な取り扱いであり、本人たちの希望だけで自由に決められるものではありません。
【配偶者の収入認定】結婚相手の給料は生活保護費にどのように影響する?
生活保護を受給している人が結婚すると、最も気になるのが配偶者の収入です。
同一世帯と認定された場合、配偶者の給与、賞与、年金、各種手当、仕送りなど、最低生活の維持に充てられる収入が原則として収入認定の対象になります。
ただし、給与明細に記載された総支給額が、そのまま全額差し引かれるわけではありません。就労に必要な経費や社会保険料、勤労控除などを考慮して認定収入を算定します。
結婚相手の働き方による違い
- 正社員:基本給や各種手当、賞与などを確認し、必要経費や控除を考慮して収入認定する。
- パート・アルバイト:勤務時間や給与額に応じて収入を認定する。少額の収入でも申告が必要。
- 自営業:事業収入から必要経費などを考慮して認定する。
- 無職:給与収入がない場合でも、年金や仕送り、その他の収入・資産などを確認する。
- 年金受給者:年金収入などを世帯の収入として審査する。
生活保護と結婚後の世帯認定・収入の関係一覧
結婚後の状況によって、生活保護の取り扱いがどのように変わるのかを整理すると、次のようになります。
| 結婚後の状況 | 世帯認定の考え方 | 生活保護への影響 |
|---|---|---|
| 夫婦で同居し家計を共有 | 原則として同一世帯 | 配偶者の収入を含めて保護費を再計算 |
| 配偶者が正社員として勤務 | 同一世帯なら収入を合算 | 収入額によって減額・停止・廃止の可能性 |
| 配偶者がパート勤務 | 同一世帯なら収入を合算 | 必要経費や勤労控除を考慮して判断 |
| 配偶者が無職 | 原則として世帯全体で審査 | ほかの収入や資産などを踏まえて判断 |
| 仕事の都合で単身赴任 | 別居でも同一世帯となる場合がある | 生活費の援助などを含めて判断 |
| 夫婦が独立した生活を送る別居 | 生活実態に応じて個別に判断 | 別世帯として扱われる可能性がある |
この表で押さえておきたいのは、結婚後の住所だけでは世帯認定が決まらないことです。実際の家計、生活費の負担、別居の理由などが重要になります。
【結婚後の保護費の計算方法】最低生活費と世帯収入から支給額が決まる
結婚後の生活保護費は、夫婦の最低生活費と世帯収入を比較して算定されます。
厚生労働省の制度説明による基本的な計算式は、次のとおりです。
生活保護費=世帯全体の最低生活費-世帯全体の認定収入
認定収入が最低生活費に届かなければ、その不足分が保護費として支給されます。反対に、認定収入が最低生活費以上になれば、原則として保護を必要としないと判断されます。
結婚後の最低生活費を決める主な項目
最低生活費は、単純に夫婦の人数だけで決まるものではありません。年齢、世帯構成、住んでいる地域、健康状態などによって計算されます。
- 生活扶助:食費、衣服費、光熱水費など日常生活に必要な費用。
- 住宅扶助:家賃や地代などの住居費。地域ごとの上限額などが適用される。
- 教育扶助:義務教育に必要な学用品や給食費など。
- 医療扶助:必要な診察や治療などの医療費。
- 各種加算:障害者加算、母子加算、児童養育加算など、該当する世帯に適用されるもの。
結婚によって世帯人数が増えれば、生活扶助などの基準も組み直されます。ただし、夫婦2人分が単身者の保護費の単純な2倍になるわけではありません。
2026年10月からの生活扶助基準の変更点
2026年の制度を確認する際に押さえておきたいのが、令和8年10月から実施された生活扶助基準の見直しです。
厚生労働省の令和8年度の生活保護基準に関する資料では、物価動向などを踏まえ、特例加算を次のように変更しています。
- 一般の世帯員:1人当たり月額2,500円。
- 入院患者・介護施設入所者:1人当たり月額1,000円を維持。
- 従前の基準額を下回る世帯:従前額保障を継続。
この特例加算は、2026年10月から1年間の措置です。結婚後の最低生活費を計算する際にも、該当する世帯員について新しい基準が反映されます。
ただし、月額2,500円が結婚した人に一律で追加支給されるという意味ではありません。世帯構成や年齢、地域などに応じて算定される生活扶助基準の一部です。
結婚後に保護費が減る理由
結婚後に保護費が減額されるのは、配偶者と生活を共有することで世帯全体の収入が増える場合があるためです。
例えば、本人の収入がほとんどなくても、配偶者が給与を得ていれば、その認定収入が世帯全体の最低生活費から差し引かれます。
一方、配偶者の収入が少なければ、結婚後も不足分に対する保護が続く可能性があります。結婚したら保護費が必ずゼロになるという考え方は誤りです。
【婚姻届提出後の手続き】福祉事務所への届出とケースワーカーへの相談方法
生活保護受給者が結婚する場合、婚姻届を提出するだけで手続きが終わるわけではありません。
結婚によって世帯構成や収入、生計の状況が変化するため、担当のケースワーカーや福祉事務所への報告が必要です。
生活保護法第61条の届出義務
生活保護法第61条には、被保護者が収入や支出、生計の状況に変動があった場合、また居住地や世帯構成に異動があった場合には、速やかに保護の実施機関または福祉事務所長へ届け出なければならないと定められています。
婚姻は世帯構成や生計に関係する重要な変更です。そのため、結婚が決まった段階でケースワーカーに相談し、婚姻後の生活について確認しておくことが望まれます。
なお、第61条は速やかな届出を求めていますが、全国一律で婚姻後何日以内と定めた独立の婚姻届出期限を規定しているわけではありません。
結婚前から結婚後までの手続きの流れ
1.結婚前にケースワーカーへ相談する
婚姻予定日、結婚後の住居、同居するか別居するか、配偶者の仕事や収入などを伝えます。結婚の許可を受けるという意味ではなく、受給への影響を事前に確認するための相談です。
2.婚姻届を市区町村役場へ提出する
通常の婚姻手続きに従って婚姻届を提出します。婚姻届の提出先と生活保護を担当する福祉事務所は、手続き上の役割が異なります。
3.福祉事務所に世帯状況の変更を届け出る
婚姻後は、担当窓口に結婚したことや新しい世帯構成を報告します。自治体によって、世帯状況変更届、世帯員異動届、生活保護変更届など、使用する書類の名称や様式が異なります。
4.配偶者の収入や生活状況を申告する
配偶者が働いている場合は、給与明細や勤務先、収入状況などを確認できる資料の提出を求められることがあります。年金や仕送りなど、ほかの収入についても申告します。
5.福祉事務所による保護費の再計算を受ける
世帯構成、収入、家賃などを確認したうえで、結婚後の最低生活費と認定収入が比較されます。その結果に基づいて保護費の変更や継続、停止・廃止などが決定されます。
福祉事務所への相談時に整理しておきたい情報
- 婚姻予定日または婚姻届を提出した日。
- 結婚後の住所と同居・別居の予定。
- 配偶者の勤務先、雇用形態、給与収入。
- 年金や手当、仕送りなどの収入状況。
- 家賃や住居費の負担方法。
- 夫婦それぞれの生活費の分担方法。
- 別居する場合は、その理由や生活費の援助状況。
必要書類は自治体や個々の状況によって異なるため、事前にケースワーカーへ確認してください。
結婚を届け出なかった場合の注意点
婚姻や世帯状況の変化を報告せず、実際には配偶者と家計を共有しているのに、その事実を申告しない場合は問題になります。
生活保護法第61条の届出義務に反する可能性があり、保護費の再計算や返還の問題につながることもあります。故意に収入や世帯状況を隠した場合には、不正受給として扱われる可能性もあります。
結婚後に保護費の変更があるかどうかにかかわらず、世帯状況の変化を正確に報告することが大切です。
【プロの結論】生活保護受給者が結婚前に確認すべき判断基準と注意点
生活保護受給者の結婚後の実態を制度面から整理すると、重要なのは婚姻届の提出日ではなく、その後の生活がどのような世帯として営まれるかという点です。
同居する夫婦であれば、原則として配偶者の収入を含めて世帯単位で審査されます。別居している場合も、仕事上の一時的な別居なのか、それぞれが独立した生活を営んでいるのかによって判断が異なります。
結婚前に確認しておきたい3つのポイント
第一に、配偶者の収入だけで判断しないことです。
給与の総額だけでなく、必要経費や勤労控除などを反映した認定収入が重要です。また、夫婦の年齢や居住地域、家賃などによって最低生活費も変わります。給与額だけを見て受給継続の可否を決めつけることはできません。
第二に、別居や世帯分離を安易に考えないことです。
住民票や銀行口座を分ければ配偶者の収入が審査対象から外れるという考え方は正しくありません。生活保護では実際の居住状況と生計の実態が重視されます。
第三に、婚姻前から福祉事務所と情報を共有することです。
結婚後の住居や家計の分担を決める前に、担当ケースワーカーへ相談しておけば、保護費の変更見込みや必要書類を確認できます。結婚後に想定外の家計負担が生じることを避けるためにも、早めの相談が有効です。
生活保護を受けていることは、結婚を諦めなければならない理由にはなりません。制度の仕組みを理解し、夫婦の生活設計と保護費への影響を事前に確認することが、安心して新しい生活を始めるための現実的な方法です。
【生活保護との結婚】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:生活保護を受けている人が結婚すると、必ず受給停止になりますか?
A1:いいえ。結婚だけで自動的に受給停止になることはありません。配偶者の収入を含む世帯全体の認定収入と最低生活費を比較し、不足があれば受給を継続できる可能性があります。
Q2:結婚しても別居していれば、配偶者の収入は関係ありませんか?
A2:必ずしもそうではありません。仕事による単身赴任など、別居していても夫婦が同一世帯として認定される場合があります。生活費の援助や別居の理由などを含めて福祉事務所が判断します。
Q3:婚姻届を提出したら、福祉事務所への連絡は必要ですか?
A3:必要です。生活保護法第61条により、世帯構成や生計状況に変化があった場合は速やかに届け出なければなりません。担当ケースワーカーに連絡し、自治体指定の世帯状況変更届など必要な書類を提出してください。
まとめ:生活保護受給中の結婚は可能、受給継続は世帯の実態で決まる
2026年11月現在、生活保護を受給している人でも結婚は可能です。婚姻届を提出したという事実だけで、生活保護が自動的に廃止される制度ではありません。
結婚後の受給継続を左右するのは、配偶者の収入、同居・別居の状況、家計の共有、世帯認定、そして夫婦の最低生活費です。
特に覚えておきたいのは、次の5点です。
- 生活保護受給者でも法律上の結婚はできる。
- 同一世帯と認定されれば配偶者の収入も原則として審査される。
- 別居していても、必ずしも別世帯になるわけではない。
- 結婚後の保護費は最低生活費と世帯収入の差額で決まる。
- 生活保護法第61条に基づき、婚姻や世帯状況の変更は速やかに届け出る。
結婚を考えている場合は、婚姻届を提出する前からケースワーカーに相談し、結婚後の生活費や世帯認定について確認しておきましょう。生活保護制度を正しく利用しながら、経済的な見通しを持って夫婦の新生活をスタートさせることが大切です。
主な根拠資料: 厚生労働省「生活保護制度」「生活保護法」「生活保護法による保護の実施要領について」「令和8年度の生活保護基準等について」。