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【結論】シグナルアプリの通信内容を警察は見られるのか

橘 宗 橘 宗 • 更新: • 公開: • 読了約 22 分
目次

Signalを使っているという理由だけで、警察が自動的に会話内容を閲覧できるわけではない。通信経路上のメッセージと、スマートフォンに保存されたメッセージでは、情報にアクセスする条件が根本的に異なるためだ。

Signalのサーバーから取得できる情報には限界がある

Signalの公式サポートは、すべての会話と通話がエンドツーエンド暗号化されており、意図した相手だけが内容を読んだり聞いたりできると説明している。

加えて、Signalはメッセージの履歴を自社サーバーに保管していない。メッセージ、写真、ファイルなどのコンテンツは基本的に利用者の端末に保存される仕組みだ。

このため、警察がSignalの運営会社に照会したとしても、同社が保有していないメッセージ本文を通常のデータ提供によって取得することはできない。

2026年3月の米国政府による情報開示請求が示したこと

注目したいのが、Signalが2026年3月6日に公表した米国連邦大陪審の召喚状に関する事例だ。

米国の連邦捜査機関は、37件の電話番号に関連するアカウントについて、アカウント作成日時と最後にSignalへ接続した日時の提出を求めた。

Signalが公表した対応結果は次のとおり。

- 7アカウント:そもそも存在しなかった
- 24アカウント:対象期間に該当する情報を保有していなかった
- 6アカウント:保有していた該当情報を提出した

つまり、Signalは法的な情報開示請求を受けること自体はあるものの、保有していないメッセージ本文や通話内容を提供することはできないと説明している。

これは米国の事例であり、日本の警察による捜査結果ではない。ただし、Signalのサーバー側に保存される情報の少なさを理解する具体例として参考になる。

それでも警察が会話内容を確認できる可能性はある

ここで誤解してはいけないのが、Signalの暗号化はスマートフォンそのものを守る万能な仕組みではないという点だ。

例えば、次のような場所にはメッセージに関連する情報が存在する可能性がある。

- 利用者本人のスマートフォン
- 会話相手のスマートフォン
- Signal Desktopなどの連携デバイス
- 利用者が有効化した暗号化バックアップ
- スクリーンショットや別の場所に保存された画像・文章

警察が適法な捜査手続きによって端末を押収した場合、保存されているデータを解析することがある。

したがって、正確な答えは、Signalの通信暗号化によってサーバーからの内容取得は難しいが、端末や別の保存先に存在する情報まで一律に閲覧不可能になるわけではないということだ。

【技術解説】Signal Protocolとエンドツーエンド暗号化の仕組み

シグナルアプリ警察

Signalの安全性を理解するには、単に「暗号化されている」という説明だけでは不十分だ。

重要なのは、誰が暗号鍵を持ち、どの段階でメッセージが暗号化・復号されるのかという仕組みである。

1. エンドツーエンド暗号化とは何か

エンドツーエンド暗号化(E2EE)は、送信者の端末で暗号化されたメッセージを、受信者の端末で復号する方式だ。

一般的な通信では、サービス提供者が通信内容にアクセスできる設計も存在する。しかしSignalでは、会話の内容を読めるのは原則として送信者と受信者だけになるよう設計されている。


Signalの暗号化イメージ



送信者
通常の文章




暗号化
暗号文に変換




通信経路・Signalサーバー
暗号化されたデータを中継
本文を通常の方法では読めない






受信者
対応する鍵で復号して文章を表示

この構造では、通信を中継するサーバーがメッセージ本文を直接読み取ることを防げる。

ただし、受信者の画面に表示された後の情報まで暗号化によって保護されるわけではない。

2. Signal Protocolが採用する鍵交換と鍵更新

Signalの暗号化技術の中核にあるのが、オープンソースで公開されている「Signal Protocol」だ。

主な技術要素として、次のものがある。

PQXDH(Post-Quantum Extended Diffie-Hellman)

通信を始める際に、相手との間で共有秘密鍵を確立するための鍵合意プロトコル。従来のX3DHを発展させたもので、耐量子計算機暗号への対応を含む設計となっている。

Double Ratchet(ダブルラチェット)

メッセージの送受信に伴って暗号鍵を更新する仕組みだ。

特徴は、一つの固定された鍵で会話全体を暗号化し続けるのではなく、メッセージごとに新しい鍵を導出することにある。

この設計には、過去の鍵が漏えいした場合でも、それだけで過去のすべてのメッセージを復号できないようにする前方秘匿性や、一定の条件下で侵害後の通信の安全性を回復する性質がある。

Signalの技術仕様書では、2025年11月4日改訂のDouble Ratchet仕様書も公開されている。そこでは、ポスト量子鍵合意技術を組み合わせたTriple Ratchetなどの設計も説明されている。

3. 暗号化が守る範囲と守らない範囲

Signalの安全性を評価するときは、暗号化が適用される範囲を理解する必要がある。

保護対象 暗号化による保護
通信中のメッセージ本文 E2EEで保護
通話の音声・映像 E2EEで保護
Signalサーバー上のメッセージ本文 通常、Signal側も閲覧できない
端末に表示されたメッセージ 端末のセキュリティにも依存
相手が撮影したスクリーンショット SignalのE2EEの保護対象外
別の端末に保存された情報 保存先のセキュリティに依存

つまり、Signal Protocolが強力であることと、スマートフォンの中にある情報が絶対に取得できないことは同じではない。

【捜査の実態】警察庁のデジタル・フォレンジックで何が分かる?

Signalと警察の関係を考えるうえで、特に重要なのが警察庁の公表している「デジタル・フォレンジック」だ。

これは、電子機器や記録媒体に保存された情報を抽出・解析し、犯罪捜査に活用できる証拠として整理する技術と手続きを指す。

1. 警察庁が公表する解析体制

警察庁の2026年版「警察の情報通信」では、情報技術解析部門の役割が説明されている。

警察のデジタル・フォレンジックは、主に次の組織が連携する体制になっている。

- 都道府県警察:捜査を担当し、必要に応じて技術支援を要請する。
- 都道府県等の情報通信部:押収した電子機器のデータ抽出や可視化を担当する。
- 管区警察局の情報通信部:地域の解析業務を支援する。
- 警察庁高度情報技術解析センター:特に高度な解析や専門的な技術支援を担う。

警察庁高度情報技術解析センターでは、高性能な解析用機材と専門職員を配置し、破損したハードディスクやメモリチップなどからのデータ抽出にも取り組んでいる。

また、スマートフォンの解析についても、都道府県等の情報通信部が捜索・差押えに関する技術的な指導や、電子機器に記録された情報の抽出・可視化を支援する仕組みが整備されている。

2. 警察がスマートフォンから調べる情報

警察庁の2025年版警察白書では、スマートフォンの解析について具体的な説明がある。

押収された端末から、捜査上の証拠となる情報を取り出す対象として挙げられているのは、次のようなデータだ。

- 通信履歴
- 位置情報
- 写真・動画
- メッセージ関連データ
- その他の電子的な記録

さらに同白書は、スマートフォンのメッセージアプリに記録された暗号化済みメッセージデータを可視化する手法の開発にも言及している。

ここは要点だ。

警察庁がメッセージアプリの暗号化済みデータを可視化する技術を開発していることは、公表資料で確認できる。しかし、これはSignalのE2EEを解読したという意味ではない。

一般的なメッセージアプリの端末内データ解析と、Signalの通信経路上の暗号化を破ることは、技術的に別の問題である。

警察庁の資料はSignalを名指しして、同アプリの通信暗号を解読したと発表しているわけではない。

3. 2024年の約2400台のスマートフォン解析事例

警察のデジタル・フォレンジックが実際の捜査でどのように活用されているかを示す事例もある。

2025年版警察白書では、2024年8月から9月にかけて実施されたSNS型投資詐欺グループへの捜索について紹介されている。

この事案では、大阪府警察が複数拠点を一斉捜索し、約2400台のスマートフォンと約60台のパソコンを押収した。

近畿管区警察局大阪府情報通信部情報技術解析課は、そのうち高度な解析が必要な大量の端末を担当。警察庁や中部管区警察局、四国警察支局などからも職員の派遣を受け、広域的な解析体制を構築した。

これはSignalを対象とした捜査事例ではない。

しかし、スマートフォンが大量に押収される事件では、専門職員と解析機材を集中的に投入してデータを調べる体制が実際に運用されていることを示している。

4. スマートフォンの押収には法的な手続きがある

警察が自由に誰のスマートフォンでも調べられるわけではない。

日本国憲法第35条は、住居・書類・所持品に対する捜索や押収について、原則として正当な理由に基づく令状を必要としている。

また、刑事訴訟法第218条では、犯罪捜査に必要がある場合、裁判官が発する令状によって差押え、捜索、検証などを行えると定めている。

逮捕に伴う処分や任意提出など、法律上の例外や別の手続きも存在する。

したがって、スマートフォンの押収とデータ解析は、暗号技術だけでなく、捜査の必要性や法的手続きとも関係する。

【比較表】Signalの通信履歴と端末内データは何が違う?

Signalと警察の関係を整理するうえで、混同されやすいのが「通信履歴」という言葉だ。

通信履歴には、サービス事業者が保有する情報と、利用者の端末に保存された情報がある。

この2つを分けて考えることで、警察が何を確認できる可能性があるのかが分かりやすくなる。

情報の種類・保存場所 確認され得る内容 主な制約・注意点
Signalのサーバー 保有する限定的なアカウント情報 メッセージ本文は原則保有しない
本人のスマートフォン メッセージ、写真、ファイルなど 端末の状態や保存状況に左右される
相手側のスマートフォン 相手側に残る会話内容 本人の端末とは別に情報が存在する
連携デバイス 同期された会話やメディア デバイスごとに保存状況が異なる
暗号化バックアップ 保存されたメッセージやメディア 復元には専用の回復キーが必要

この表から分かるのは、Signalのサーバーが保有する情報と、端末側の情報では、捜査上の確認可能性が異なるということだ。

通信履歴を確認する場合の注意点

「Signalの通信履歴を警察が確認する」という表現には、少なくとも3つの意味がある。

1. Signalの運営会社が保有するアカウント情報を確認すること。
2. スマートフォンに残されたメッセージや通話関連データを解析すること。
3. 他の端末や外部に保存された会話の記録を確認すること。

これらは同じ調査ではない。

特に、Signalがサーバーにメッセージ本文を保存していないことを理由に、端末内の会話記録も存在しないと考えるのは誤りだ。

【復元の可能性】Signalメッセージは警察に復元されるのか

Signalのメッセージ復元については、アプリの通常のデータ保存とバックアップ機能を区別する必要がある。

1. Signalのメッセージは基本的に端末内に保存される

Signal公式サポートによると、メッセージ、画像、ファイルなどの会話内容は利用者の端末に保存される。

Signalの運営会社が会話履歴のコピーを保有しているわけではないため、スマートフォンを紛失した場合や、アプリを削除した場合に、運営会社から過去の会話をそのまま取り戻すことはできない。

また、メッセージを削除した場合も、通常の操作でSignalのサーバーから過去の会話を再取得することはできない。

2. 2026年のSignal Secure Backupsとは

Signalには、任意で利用できる「Signal Secure Backups」というバックアップ機能がある。

この機能は、端末の紛失や故障などに備えて、メッセージ履歴を暗号化して保存するものだ。

公式サポートによると、主な仕様は次のとおり。

- メッセージ本文をバックアップできる。
- 無料プランでは直近45日間のメディアを保存できる。
- 64文字の回復キーによって保護される。
- バックアップはエンドツーエンド暗号化される。
- 利用者が任意で有効化する仕組みになっている。

特に重要なのは、回復キーをSignalのサーバーに共有しない設計になっている点だ。

Signalの説明では、この回復キーがなければSignal自身もバックアップの内容を復号できない。

3. Androidの端末内バックアップにも注意

Androidには、Signalの端末内バックアップ機能も用意されている。

バックアップファイルと復元用のキーを組み合わせて、過去の会話を新しい端末などに復元する仕組みだ。

バックアップファイルだけを持っていても、必要な回復キーがなければ通常の復元はできない。

なお、AndroidとiPhoneでは対応するバックアップ方式が異なるため、同じ方法ですべての端末間を移行できるわけではない。

4. 連携デバイスに残るメッセージにも注意が必要

Signalはスマートフォンだけでなく、パソコンやタブレットなどを連携デバイスとして利用できる。

公式サポートによると、連携時にはスマートフォンからチャットと直近45日間のメディアを同期でき、アカウントには最大5台の連携デバイスを登録できる。

つまり、スマートフォンのほかにSignal Desktopなどを利用している場合、会話に関連するデータが別の端末にも存在する可能性がある。

これは、Signalの通信暗号化とは別に、各デバイスの管理が重要になる理由でもある。

【誤解を検証】シグナルアプリが警察にバレる理由と安全性・評判

Signalを使っていること自体が、警察に自動通知されるという仕組みがあるわけではない。

ただし、アプリの暗号化と、利用者の身元や行動が特定されることは別問題だ。

1. Signalを使っているだけで警察に特定されるのか

Signalの利用だけを理由に、直ちに警察に身元が知られるという説明には根拠がない。

一方、捜査ではアプリの会話内容だけでなく、他の客観的な証拠も調べられる。

例えば、関係者の証言、相手側に保存された記録、スマートフォン内の情報、写真や位置情報などを組み合わせれば、会話の暗号化とは別の経路から人物や出来事の関係が明らかになる場合がある。

つまり、Signalの利用が知られることと、Signalの暗号化されたメッセージ本文が取得されることは同義ではない。

2. Signalの安全性と評判をどう評価するべきか

Signalの安全性を評価する際には、次の3点が重要だ。

第一に、暗号化が標準設定であること。

利用者が特別な設定をしなくても、会話と通話にエンドツーエンド暗号化が適用される。

第二に、ソースコードが公開されていること。

Signalはクライアントとサーバーのソースコードを公開しており、技術者や研究者が仕組みを検証できる環境を整えている。

第三に、利用者側の端末管理が必要なこと。

どれほど優れた暗号化技術を採用していても、端末の紛失や不正利用、別の場所への情報保存などのリスクは残る。

そのため、Signalは通信のプライバシー保護を重視する人に適したアプリだが、あらゆる情報漏えいを防ぐ完全な匿名化ツールではない。

3. よくある5つの誤解と実際の違い

ネット上で見かける認識 実際の仕組み
警察はSignalの会話を自由に読める サーバー上の本文は通常取得できない
暗号化されているから端末も安全 端末内データは別途保護が必要
メッセージを削除すれば必ず復元不能 別端末やバックアップに記録が残る可能性がある
Signalは完全匿名のアプリ 電話番号による登録などが必要
警察が解析技術を持てば必ず解読できる 解析対象や暗号化方式、端末状態によって結果が異なる

特に、警察庁が公表している暗号化済みメッセージデータの可視化技術を、SignalのE2EEが破られた証拠として扱うのは適切ではない。

技術の対象と範囲を区別することが、情報を正しく理解するためのポイントだ。

【プロの結論】Signalと警察の関係で本当に理解すべきこと

2026年のSignalと警察の関係を整理すると、重要なのは暗号化の強さだけではなく、情報がどこに保存されているかという問題だ。

SignalのE2EEは、通信中のメッセージ内容を第三者から保護するための強力な仕組みである。一方、警察庁はスマートフォンなどの電子機器から情報を抽出・可視化し、捜査に活用するデジタル・フォレンジックの技術を整備している。

この2つは矛盾しない。

Signalがサーバー上に持っていない会話内容を提供できないことと、捜査機関が端末内に残るデータを調べることは、異なる情報経路に関する話だからだ。

読者が理解しておきたい判断基準は次のとおり。

- 通信のプライバシーを重視する人: SignalのE2EEは有力な選択肢になる。
- 端末の紛失や不正利用が心配な人: スマートフォン自体のロックやOSのセキュリティも重視する必要がある。
- 過去の会話を保管したい人: Secure Backupsの仕様と回復キーの管理を理解しておくことが大切だ。
- 完全な匿名性を期待する人: Signalの暗号化だけで身元や行動まで隠せると考えるべきではない。

最終的には、「通信が暗号化されていること」と「端末にある情報を誰も確認できないこと」は別である。

この違いを理解することが、Signalの安全性を正しく評価するための出発点となる。

【シグナルアプリと警察の関係】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:シグナルアプリのメッセージは警察でも見られない?

A1:Signalのサーバーに保存されていないメッセージ本文を、運営会社への照会だけで取得することは原則として困難だ。ただし、押収された端末や会話相手の端末などに内容が残っている場合は、別の方法で確認される可能性がある。

Q2:Signalのメッセージは削除しても復元される?

A2:必ず復元されるわけではない。Signalは基本的に端末内にメッセージを保存するため、削除後に運営会社から履歴を取り戻すことはできない。一方、バックアップや別の連携端末に記録が残っている可能性はある。

Q3:警察がスマートフォンを押収したらSignalの会話は全部見られる?

A3:必ずしもそうではない。端末のロック状態、OS、Signalのバージョン、保存データの状態、利用可能な解析技術などによって結果は異なる。押収しただけで過去の全会話を取得できるというわけではない。

Q4:Signalを使っていることが警察に自動的に通知される?

A4:Signalを利用しただけで警察に自動通知されるという仕組みは確認されていない。ただし、アプリの利用と個人の特定は別の問題であり、他の証拠から利用者が特定される可能性はある。

Q5:2026年現在、Signalは安全なメッセージアプリといえる?

A5:通信内容のプライバシー保護という点では、標準のエンドツーエンド暗号化や公開された暗号化仕様など、強固な特徴を備えている。ただし、端末の管理やバックアップ、連携デバイスの保護まで含めて利用する必要がある。

まとめ:【プロの結論】今後も注目すべきSignalの暗号化と警察の解析技術

2026年11月現在、SignalのE2EEはメッセージ本文を第三者から保護する重要な技術であり、警察が運営会社への照会だけで自由に会話内容を取得できるわけではない。

一方、警察庁が公表するデジタル・フォレンジックの資料からは、スマートフォンのデータ抽出や暗号化済みメッセージデータの可視化など、電子機器の解析技術が進展していることも読み取れる。

ただし、一般的なメッセージアプリの解析技術とSignal固有の通信暗号を解読する技術は区別しなければならない。

今後も暗号化技術とデジタル・フォレンジックの双方が発展するなかで、通信の保護、端末内データの管理、バックアップの安全性を総合的に理解することが、プライバシーを守るうえで欠かせない。

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