伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の代表作「動植綵絵(どうしょくさいえ)」は、江戸時代中期に描かれた全30幅からなる花鳥画の大作です。鶏や鳳凰、魚、昆虫、草花など、さまざまな生命を驚くほど精密かつ鮮やかな色彩で表現した作品群であり、2021年9月30日には国宝に指定されました。現在は国が所有し、皇居三の丸尚蔵館が収蔵しています。
2026年の大きな話題は、皇居三の丸尚蔵館の全面開館と、その記念事業として2027年2月4日から開催される特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」です。国宝指定後初となる全30幅の一斉公開が予定されており、国内で約10年ぶりに全作品をまとめて鑑賞できる貴重な機会となります。
【動植綵絵とは?】読み方・意味と伊藤若冲が描いた全30幅の全貌

「動植綵絵」の読み方と作品名に込められた意味
「動植綵絵」の読み方はどうしょくさいえです。
「動植」は動物や植物、「綵絵」は色彩豊かに描かれた絵画を意味します。つまり、さまざまな生き物と植物を鮮やかな色彩で描いた作品群という意味合いを持つ名称です。
この呼び名は、若冲が相国寺に作品を寄進した際の「寄進状」に記された文言に由来しています。単なる後世の通称ではなく、作品が寺院に奉納された歴史と結びついた名称なのです。
作品の作者は、江戸時代中期の京都で活躍した伊藤若冲(1716~1800年)。京都・錦市場の青物問屋の主人として家業を営んでいましたが、1755年に家督を弟へ譲り、絵画制作に専念しました。
皇居三の丸尚蔵館の収蔵品情報によると、動植綵絵は江戸時代の18世紀に制作された絹本着色の作品で、30幅から構成されています。各作品はおおむね縦142cm、横80cm前後という大きさです。小さな絵を集めたものではなく、実際に掛け軸として鑑賞する大型の連作です。
動植綵絵30幅の作品名一覧
全30幅には、四季の花々、鳥、魚、虫、貝など、幅広い動植物が描かれています。文化庁の国指定文化財等データベースに掲載されている作品名を、制作順の番号に沿って紹介します。
第1幅~第10幅
- 第1幅:芍薬群蝶図(しゃくやくぐんちょうず)
- 第2幅:梅花小禽図(ばいかしょうきんず)
- 第3幅:雪中鴛鴦図(せっちゅうえんおうず)
- 第4幅:秋塘群雀図(しゅうとうぐんじゃくず)
- 第5幅:向日葵雄鶏図(ひまわりゆうけいず)
- 第6幅:紫陽花双鶏図(あじさいそうけいず)
- 第7幅:大鶏雌雄図(たいけいしゆうず)
- 第8幅:梅花皓月図(ばいかこうげつず)
- 第9幅:老松孔雀図(ろうしょうくじゃくず)
- 第10幅:芙蓉双鶏図(ふようそうけいず)
第11幅~第20幅
- 第11幅:老松白鶏図(ろうしょうはっけいず)
- 第12幅:老松鸚鵡図(ろうしょうおうむず)
- 第13幅:芦鵞図(ろがず)
- 第14幅:南天雄鶏図(なんてんゆうけいず)
- 第15幅:梅花群鶴図(ばいかぐんかくず)
- 第16幅:棕櫚雄鶏図(しゅろゆうけいず)
- 第17幅:蓮池遊魚図(れんちゆうぎょず)
- 第18幅:桃花小禽図(とうかしょうきんず)
- 第19幅:雪中錦鶏図(せっちゅうきんけいず)
- 第20幅:群鶏図(ぐんけいず)
第21幅~第30幅
- 第21幅:薔薇小禽図(ばらしょうきんず)
- 第22幅:牡丹小禽図(ぼたんしょうきんず)
- 第23幅:池辺群虫図(ちへんぐんちゅうず)
- 第24幅:貝甲図(ばいこうず)
- 第25幅:老松白鳳図(ろうしょうはくほうず)
- 第26幅:芦雁図(ろがんず)
- 第27幅:諸魚図(しょぎょず)
- 第28幅:群魚図(ぐんぎょず)
- 第29幅:菊花流水図(きっかりゅうすいず)
- 第30幅:紅葉小禽図(こうようしょうきんず)
注目したいのは、30幅のすべてが同じ種類の動植物を描いた作品ではないことです。鶏を中心とした鳥類、花木、昆虫、魚類、貝類などが組み合わされ、一つの大きな自然の世界を形成しています。
皇居三の丸尚蔵館の収蔵品情報でも、若冲が特に好んだニワトリを中心に、多種多様な動植物が描かれている点が作品の特色として紹介されています。
【なぜ国宝に指定された?】制作年・制作背景と若冲の芸術性
約10年をかけて完成した若冲の代表作
動植綵絵の制作は、1757年頃から1758年以前に始まったと考えられています。完成までには約10年を要し、若冲が40歳を過ぎてから50歳代にかけて取り組んだ大規模な仕事でした。
文化庁の詳細解説によると、30幅のうち最も早い制作年の記載は宝暦8年(1758年)です。1761年までには12幅が完成し、1765年には相国寺への寄進が進められていました。そして1766年11月までには全30幅が完成したと考えられています。
この制作期間は、若冲の画家としての成熟期と重なります。家業を離れた後、商人としての生活から芸術家としての活動へ軸足を移し、自らの表現を徹底的に追求していった時期です。
国宝指定日は2021年9月30日
動植綵絵は2021年9月30日に国宝に指定されました。指定対象は全30幅で、文化財の正式名称は「絹本著色動植綵絵〈伊藤若冲筆〉」です。
国宝として評価された理由は、単に色彩が美しいからではありません。文化庁の解説では、徹底的な観察に基づく動植物の実在感と、絵画としての大胆な構図や意匠性が高度に融合している点が評価されています。
加えて、従来の花鳥画の伝統を受け継ぎながら、中国絵画や博物学的な知識など、若冲が参照した幅広い要素を独自の表現へと発展させたことも重要です。
一幅ごとの完成度に加え、30幅全体で日本の花鳥画の集大成と呼べる規模と質を実現していることが、国宝としての大きな価値につながっています。
国宝指定までの重要な歴史年表
- 1716年:伊藤若冲、京都に生まれる。
- 1755年:家督を弟に譲り、画業に専念する。
- 1757~1758年頃:動植綵絵の制作が始まったと考えられる。
- 1761年まで:12幅が完成。
- 1765年:釈迦三尊像と動植綵絵の一部を相国寺に寄進。
- 1766年:全30幅が完成したと考えられる。
- 1770年10月:両親と自身の供養に関わる作品として相国寺に奉納。
- 1889年:相国寺から皇室へ献上。
- 1989年:皇室から国へ寄贈。
- 2021年9月30日:全30幅が国宝に指定。
制作開始から国宝指定までを振り返ると、動植綵絵は単なる江戸時代の装飾絵画ではなく、若冲の人生、信仰、寺院文化、皇室文化が重なり合って受け継がれてきた作品であることが分かります。
【相国寺から皇室へ】寄進の経緯と釈迦三尊像との深い関係
大典顕常との交流が生んだ壮大な構想
動植綵絵の成立を理解するうえで欠かせない人物が、京都・相国寺の僧侶である大典顕常(だいてんけんじょう)です。
若冲は大典禅師と親交を深め、仏教や禅の世界とも関わりながら制作を続けました。その交流を背景として生まれたのが、動植綵絵と釈迦三尊像という一連の作品です。
釈迦三尊像は、釈迦如来を中心に文殊菩薩と普賢菩薩を配した三幅対の仏画です。動植綵絵30幅は、この釈迦三尊像を中心に据える荘厳画として構想されました。
つまり、動植綵絵は独立した花鳥画のコレクションとしてだけではなく、仏教儀礼の空間を彩る大規模な作品群として制作されたのです。
寄進から皇室への献上までの関係整理
作品を取り巻く人物・寺院・文化財の関係を整理すると、現在まで伝わった経緯が理解しやすくなります。
| 人物・作品・組織 | 動植綵絵との関係 | 歴史的な役割 |
|---|---|---|
| 伊藤若冲 | 作者・寄進者 | 約10年をかけて全30幅を制作し、相国寺に寄進した。 |
| 大典顕常 | 若冲の交流相手 | 相国寺との縁を深め、作品制作の背景を支えた僧侶。 |
| 相国寺 | 当初の寄進先 | 釈迦三尊像と動植綵絵を儀式に使用した。 |
| 釈迦三尊像 | 関連する仏画 | 動植綵絵30幅の中心となる荘厳画として構想された。 |
| 萩野獨園 | 明治期の相国寺管長 | 寺院の財政再建のため、1889年の皇室献上を進めた。 |
| 皇室 | 1889年以降の伝来先 | 作品を受け継ぎ、保存してきた。 |
| 国・文化庁 | 現在の所有者 | 1989年の寄贈を経て、国の文化財として保管する。 |
| 皇居三の丸尚蔵館 | 現在の収蔵施設 | 国宝として作品を収蔵し、調査・展示を担う。 |
1889年の皇室献上には相国寺の財政事情があった
現在の動植綵絵が相国寺ではなく皇居三の丸尚蔵館に収蔵されているのは、明治時代の歴史的な事情によります。
明治初期の廃仏毀釈などの影響を受け、相国寺は経済的に厳しい状況に置かれていました。そこで、当時の管長・萩野獨園は1889年、動植綵絵30幅を皇室に献上しました。
相国寺の公式資料によると、この献上に伴って寺には1万円が下賜され、その資金を活用して寺域の土地を買い戻すことができました。寺院の存続と文化財の保存という二つの問題が結びついた出来事だったのです。
その後、1989年に皇室から国へ寄贈され、現在は国が所有し、皇居三の丸尚蔵館に収蔵されています。
この伝来の歴史は、文化財が一つの寺院だけで守られてきたのではなく、時代ごとの社会状況や保存体制の変化を経て、現在の形で受け継がれていることを示しています。
【若冲の色彩技法】裏彩色と蛍光X線分析で判明した驚きの事実
絹本着色ならではの繊細な色彩表現
動植綵絵の大きな特徴は、動植物の細部まで描き込む精密さと、鮮やかで奥行きのある色彩です。
若冲は絹を支持体とする絹本着色の技法を用い、羽毛、花弁、鱗、葉脈などを細かく描き分けています。加えて、画面の余白や背景の使い方にも工夫があり、動植物の存在感を強調する大胆な構図が生み出されています。
代表的な技法の一つが裏彩色(うらざいしき)です。これは絹の裏側からも色を施す技法で、表面から塗るだけでは得にくい柔らかな色調や透明感を表現できます。
特に白い羽毛や淡い色の部分では、絹そのものの質感を生かしながら、複雑な色彩の重なりを作り出しています。
金箔や金泥を使わずに金色を表現した作品もある
東京文化財研究所の早川泰弘による彩色材料研究では、動植綵絵の色彩表現について興味深い事実が明らかになっています。
例えば、金色や金茶色に見える部分の多くでは、金を原料とする顔料が検出されませんでした。代わりに、裏面に黄土や代赭などの黄色・茶色系材料を塗り、表面にカルシウム系の白色顔料を薄く重ねたり、線描きしたりする方法が確認されています。
こうすることで、絹を通して裏面の色を透かし、表面の白色と組み合わせて金色のような印象を生み出していたのです。
ただし、作品に金泥がまったく使用されていないわけではありません。研究では、第9幅「老松孔雀図」の尾羽の一部と、第12幅「老松鸚鵡図」の尾羽の金色線から金が検出されています。
金泥を使える環境にありながら、別の方法で金色を表現した部分があるという点に、若冲の技術的な工夫が表れています。
蛍光X線分析が明らかにした青色の秘密
動植綵絵の科学的研究では、蛍光X線分析という非破壊・非接触の調査方法が用いられました。
1999年度から2004年度までの6年間にわたる修理事業の過程で、東京文化財研究所は三の丸尚蔵館と協力し、全30幅の彩色材料を調査しました。
蛍光X線分析は、作品に含まれる元素の種類や量を調べる方法です。文化財を傷つけずに調査できることが大きな利点ですが、元素を検出するだけで、顔料や染料の種類をすべて直接特定できるわけではありません。そのため、可視反射分光分析や肉眼観察など、別の調査方法との組み合わせが必要になります。
2010年に発表された早川泰弘・太田彩による青色材料の研究では、第28幅「群魚図」に描かれたルリハタの濃青色部分から、プルシアンブルーである可能性が非常に高い青色材料が見つかりました。
プルシアンブルーは18世紀初頭にヨーロッパで合成された青色顔料です。研究では、蛍光X線分析と可視反射分光分析を組み合わせて検討されました。ただし、作品を傷つける可能性のあるX線回折分析は実施されていないため、顔料の同定は確定ではなく、非常に可能性が高いという評価にとどまっています。
こうした研究から分かるのは、動植綵絵の色彩が単純に多くの絵具を使った結果ではないということです。絹の透過性、顔料の重ね方、染料の特性まで考慮した、計算された色彩表現が作品の美しさを支えています。
【2026年最新】所蔵先・高精細画像と2027年の一斉公開情報
現在の所蔵先は皇居三の丸尚蔵館
動植綵絵の現在の収蔵先は、東京都千代田区の皇居三の丸尚蔵館です。
同館は皇室ゆかりの美術品や文化財を収蔵・展示する施設で、動植綵絵もその代表的な収蔵品の一つです。文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者は国、保管施設は皇居三の丸尚蔵館と記載されています。
2026年11月3日には、同館が全面開館します。グランドオープン記念特別展の第1弾は「皇室の至宝―美いづるところ」で、2026年11月3日から2027年1月24日まで開催予定です。
ただし、この展覧会と動植綵絵の全30幅を一斉公開する展覧会は別の企画です。動植綵絵をまとめて鑑賞したい場合は、2027年2月からの特別展が本命となります。
高精細画像でオンライン鑑賞できる?
動植綵絵は、実物の展覧会に足を運ばなくても、オンラインで作品情報や画像を確認する方法があります。
特に注目したいのが、皇居三の丸尚蔵館と東京文化財研究所が公開している「動植綵絵」の光学調査デジタルコンテンツです。
この研究用サイトでは、2001~2008年度の共同研究で撮影された高精細写真や、蛍光X線による彩色材料分析のデータが公開されています。作品一覧や部分拡大画像などを通じて、肉眼では見落としやすい細部を研究資料として確認できます。
ただし、同サイトの画像利用は調査研究目的に限定されています。一般的な画像利用については皇居三の丸尚蔵館への問い合わせが必要です。高精細画像が公開されていることと、自由に転載・利用できることは別なので注意してください。
また、皇居三の丸尚蔵館の公式オンラインコンテンツには、動植綵絵の鑑賞ガイドも用意されています。作品の背景を学んでから実物を鑑賞したい人にとって、有用な資料です。
2027年特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」の開催概要
2027年2月4日(木)から3月14日(日)まで、皇居三の丸尚蔵館で特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」が開催されます。
同館のグランドオープン記念特別展として企画されたもので、国宝指定後初となる全30幅の一斉展示です。国内での全幅一斉公開としても約10年ぶりとなり、前回の大きな機会となった2016年の東京都美術館「生誕300年記念 若冲展」以来の注目イベントです。
展覧会の基本情報
- 展覧会名:特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」
- 会期:2027年2月4日(木)~3月14日(日)
- 会場:皇居三の丸尚蔵館
- 開館時間:9時30分~17時
- 金曜・土曜:20時まで夜間開館
- 休館日:月曜日、2027年2月23日
- 一般観覧料:3,000円
- 入館方式:日時指定制
- 主催:皇居三の丸尚蔵館、読売新聞社、NHK
小学生・中学生・高校生・大学生および満23歳未満の人は無料です。障がい者手帳を持つ人と介護者1名も無料となります。ただし、無料対象者も原則として事前予約が必要で、当日券の会場販売はありません。
また、会期中は一部作品の展示替えが予定されています。全30幅の一斉展示という大きな企画である一方、すべての作品が会期中ずっと同じ状態で展示されるわけではない点も押さえておきたいところです。
2026年11月2日時点では、公式展覧会ページのチケット表示は「受付前」です。販売開始日などの新しい情報は、皇居三の丸尚蔵館の公式発表を確認する必要があります。
【見どころを解説】代表作品から読み解く動植綵絵の魅力
群鶏図:若冲の鶏への強い関心が表れた代表作
第20幅「群鶏図」は、動植綵絵を代表する作品の一つです。
若冲はニワトリを好んで描いた絵師として知られています。動植綵絵でも複数の鶏の作品が登場し、羽毛の細部や姿勢、画面内での配置にまでこだわった表現が見られます。
一羽ずつの存在感を追うだけでなく、複数の鶏が画面の中でどのようなリズムを生み出しているのかを見ると、若冲の構図設計の面白さが伝わります。
老松白鳳図:幻想性と写実性が融合した一幅
第25幅「老松白鳳図」は、老松と白鳳を組み合わせた作品です。
現実の動植物を細密に観察する若冲の姿勢と、現実には存在しない神秘的な生き物を描く想像力が一つの画面に共存しています。
特に白鳳の羽毛表現は、裏彩色などの技術的な工夫を考えながら見ると、色彩の重なりや絹の質感をより深く味わえます。
池辺群虫図・貝甲図:小さな生命への徹底した観察
第23幅「池辺群虫図」と第24幅「貝甲図」は、鳥や花だけではない動植綵絵の魅力を知るうえで重要な作品です。
昆虫や貝など、一般的な花鳥画では主役になりにくい生き物が画面の中心に据えられています。大きな動物や華麗な花だけでなく、小さな生命にも目を向ける若冲の観察眼が感じられます。
こうした作品を見ると、動植綵絵が単なる美しい自然の図鑑ではなく、あらゆる生命を一つの絵画世界に取り込もうとする壮大な構想を持っていたことが分かります。
群魚図・蓮池遊魚図:水中の生命を描く独特の表現
第17幅「蓮池遊魚図」、第27幅「諸魚図」、第28幅「群魚図」も見逃せません。
魚の姿や鱗の描写だけでなく、水中の生き物の動きや画面全体の流れに注目すると、若冲の観察と構成の巧みさが見えてきます。
特に群魚図は、蛍光X線分析と可視反射分光分析によって青色材料の研究が行われた作品です。ルリハタの青色表現からプルシアンブルーの可能性が高い材料が確認されたという研究成果もあり、美術鑑賞と科学研究が交わる興味深い一幅となっています。
30幅を一つの作品群として鑑賞する意味
動植綵絵の魅力は、個別作品の美しさだけではありません。
相国寺に寄進された当時は、釈迦三尊像を中心に、その左右へ15幅ずつ配置する構想がありました。似た主題の作品を対になるように組み合わせ、寺院の空間全体を動植物の絵で彩っていたとされています。
2027年の一斉展示では、この大規模な連作としての性格を意識して鑑賞すると、個々の絵を順番に見るだけでは気づきにくい構成の面白さを発見できます。
【伊藤若冲の動植綵絵】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:動植綵絵は何と読みますか?
A1:動植綵絵は「どうしょくさいえ」と読みます。伊藤若冲が制作した動物や植物を題材とする全30幅の絹本着色作品です。
Q2:動植綵絵はなぜ国宝に指定されたのですか?
A2:動植物の徹底した観察に基づく写実性と、大胆な構図や独創的な色彩表現が高く評価されたためです。江戸時代中後期の京都画壇を代表し、日本の花鳥画の到達点の一つと評価されています。2021年9月30日に国宝指定されました。
Q3:動植綵絵は現在どこに所蔵されていますか?
A3:東京都千代田区の皇居三の丸尚蔵館に収蔵されています。現在の所有者は国で、文化庁が保管しています。
Q4:動植綵絵は2027年に全30幅を見られますか?
A4:2027年2月4日から3月14日まで開催される特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」で全30幅の一斉展示が予定されています。ただし、会期中に一部作品の展示替えがあります。
Q5:動植綵絵の高精細画像は無料で見られますか?
A5:東京文化財研究所と皇居三の丸尚蔵館の共同研究による高精細画像や彩色材料分析データが公開されています。ただし、研究用コンテンツの画像利用は調査研究目的に限定されています。一般向けの鑑賞ガイドも同館のオンラインコンテンツで確認できます。
Q6:動植綵絵と釈迦三尊像にはどのような関係がありますか?
A6:動植綵絵は、相国寺に寄進された釈迦三尊像を中心に据え、その周囲を彩る荘厳画として構想されました。30幅の花鳥画と3幅の仏画が一体となり、寺院の儀式空間を構成していたのです。
まとめ:動植綵絵は若冲の芸術・信仰・科学が交差する国宝
伊藤若冲の動植綵絵は、約10年をかけて完成した全30幅の大作であり、江戸時代の花鳥画を代表する作品群です。
その価値は、動植物の細部を捉える写実性だけではありません。大胆な構図、裏彩色を含む高度な色彩技法、釈迦三尊像と一体となった宗教的な構想、そして相国寺から皇室、国へと受け継がれた歴史が重なっています。
蛍光X線分析などの科学的調査によって、金色に見える部分の彩色方法や青色材料の可能性まで明らかになってきたことも、作品研究の大きな成果です。
そして2027年2月、国宝指定後初となる全30幅の一斉展示が実現します。2016年以来、国内で約10年ぶりとなる貴重な機会です。
鑑賞する際は、華やかな色彩だけでなく、羽毛や鱗の細部、絹の透け感、作品同士の構図のつながりにも注目してみてください。若冲が描こうとした自然の豊かさと生命の多様性を、より深く感じ取れるはずです。
2026年の皇居三の丸尚蔵館全面開館から2027年の特別展へ。動植綵絵は、歴史的な文化財としてだけでなく、今なお新しい発見をもたらす日本美術の至宝として、改めて大きな注目を集めています。
主な事実確認資料
- 文化庁「国指定文化財等データベース」:作品名、全30幅の一覧、制作・寄進の年代、国宝指定日。
- 皇居三の丸尚蔵館:所蔵情報、作品の伝来、2027年特別展の公式開催概要。
- 相国寺公式資料:若冲と相国寺の関係、皇室献上の経緯。
- 東京文化財研究所:蛍光X線分析、裏彩色、金色表現、青色材料の研究。