2013年11月23日に公開されたスタジオジブリの長編アニメーション映画『かぐや姫の物語』。高畑勲監督が8年以上の制作期間をかけ、日本最古の物語とされる『竹取物語』を新しい映像表現で描いた意欲作だ。しかし、興行収入は約24.7億円。一方、製作費は約50億円、鈴木敏夫プロデューサーが明かした実際の金額は51.5億円だった。この数字だけを見ると、映画興行として大失敗だったようにも映る。
ところが、公開初週には全国映画動員ランキングで初登場1位を獲得し、2015年にはアカデミー賞長編アニメーション賞にもノミネートされている。2026年1月のテレビ放送でも視聴率を記録した。興行成績だけで作品の価値を判断できない理由が、ここにある。果たして本当に大コケだったのか。制作費が膨らんだ背景、東宝による配給の実績、赤字説の根拠、国内外の評価を数字と歴史から検証する。
【結論】『かぐや姫の物語』は本当に大コケだったのか?24.7億円と51.5億円の現実

最初に結論を整理すると、『かぐや姫の物語』は製作費に対する劇場興行の収益力という観点では、厳しい結果に終わった作品だ。一方、公開初週の首位獲得や海外での映画賞ノミネートを踏まえると、作品そのものが観客や批評家から全面的に拒絶されたわけではない。
興行収入と製作費の差は26.8億円
本作の興行収入は約24.7億円。製作費を51.5億円とすると、両者の差は約26.8億円になる。
興行収入と製作費の比較
興行収入24.7億円
製作費51.5億円
単純な金額差26.8億円
単純計算では、興行収入は製作費の約48%にとどまる。50億円を超える制作投資に対し、劇場公開で得られた売上規模が小さかったことは否定できない。
ただし、映画の興行収入は映画館で観客が支払ったチケット代の総額であり、その全額が制作会社に入るわけではない。劇場の取り分、配給手数料、宣伝費などを差し引いた金額が製作者側に分配される。
したがって、26.8億円をそのまま赤字額と呼ぶのは正確ではない。
初登場1位なのに、なぜ大ヒットにならなかったのか
意外に思われるかもしれないが、本作は公開直後から不人気だったわけではない。
2013年11月23日、全国456スクリーンで公開され、11月23日・24日の土日2日間で約22万2,822人を動員。興行収入は約2億8,425万円となり、全国映画動員ランキングで初登場1位を獲得した。
高畑勲監督にとって約14年ぶりの新作という話題性もあり、公開当初は十分な注目を集めていた。
しかし、公開初週のランキング首位と、最終的な興行収入の大きさは別問題である。初週に首位を獲得しても、その後の集客が伸び続けるとは限らない。
つまり、本作の問題は公開初日の集客ではなく、51.5億円という極めて大きな制作投資に見合う興行規模まで到達できなかったことにある。
【公開から評価まで】『かぐや姫の物語』の興行的失敗の経緯を時系列で整理
本作の興行成績を理解するには、公開前後のジブリの状況も押さえておく必要がある。
2013年は、宮崎駿監督の『風立ちぬ』が公開された年でもある。同作は興行収入120.2億円を記録し、2013年の国内映画興行収入ランキングで1位となった。
その約4か月後に公開されたのが、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』だった。
同じスタジオジブリの作品でありながら、興行成績には大きな差が生まれた。
公開・興行・評価の重要年表
出典:スタジオジブリ公式情報、オリコン、スポニチ、ビデオリサーチなど。
東宝配給とスタジオジブリの制作体制
『かぐや姫の物語』の配給を担当したのは東宝だ。
スタジオジブリの公式作品情報によれば、2013年11月23日に公開され、上映時間は約137分。原案・脚本・監督は高畑勲、脚本には坂口理子が参加し、音楽を久石譲が担当した。
製作にはスタジオジブリ、日本テレビ、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、ディズニー、三菱商事、東宝、KDDIが名を連ねている。
この顔ぶれからも、本作が単独の小規模なアニメーション制作ではなく、大規模な企業間連携によって実現した映画だったことが分かる。
重要なのは、東宝が配給を担当したという事実と、作品の最終的な利益がどう分配されたかは別の問題だという点である。
配給会社が関わっているからといって、劇場で得られたチケット売上がそのまま制作会社の売上になるわけではない。
【大コケと言われる理由】製作費51.5億円に膨らんだ3つの背景
では、なぜ『かぐや姫の物語』には50億円を超える製作費が必要だったのか。
最大の理由は、一般的な商業アニメーションとは異なる映像表現への挑戦にある。
1.制作期間が8年以上に及んだ
本作は企画から完成まで約8年を要した。
2013年の公開時点で、長期間にわたる制作と50億円を超える製作費は大きな話題になっていた。
鈴木敏夫プロデューサーは当時のインタビューで、製作費について次のように説明している。
「本当は51.5億なんですよ。みっともないから切り捨てて50億。」
これは女性自身に掲載された鈴木氏のインタビューでの発言だ。一般に伝えられてきた50億円という数字は、実際の金額を丸めたものだったことになる。
制作期間が長くなれば、それだけ制作スタッフの人件費や制作管理に関わる費用なども積み重なる。
もちろん、51.5億円のすべてが人件費だったわけではない。しかし、8年という制作期間が本作のコスト構造を考えるうえで重要な背景であることは間違いない。
2.水彩画のような独特の手描き表現
『かぐや姫の物語』を見て、まず印象に残るのは従来のジブリ作品とは異なる映像表現だろう。
輪郭線を強調しすぎず、筆で描いたような柔らかな線と淡い色彩を生かしている。人物の動きにも独特の勢いがあり、特にかぐや姫が感情を爆発させる場面では、画面全体が一気に動き出すような演出が用いられている。
スタジオジブリの公式展示資料でも、本作は手描きの線を生かした水彩画風の描法に挑戦した作品として紹介されている。
映画テレビ技術協会の勉強会でも、約8年に及ぶ制作期間と独創的な映像構成が取り上げられた。
つまり、単に既存のアニメーション制作工程を踏襲した作品ではない。高畑監督が求めた映像を実現するために、制作上の試行錯誤そのものが大きな投資になったと考えられる。
3.137分の長編で、万人向けの娯楽作品とは異なる
本作の上映時間は約137分。約2時間17分の長編作品だ。
ストーリーは『竹取物語』を基礎としているものの、単純な昔話の再現ではない。
かぐや姫が生まれ、自然の中で成長し、都へ移り住み、さまざまな人間関係や社会的な制約に直面していく過程を通して、自由、生きる喜び、女性の生き方、家族の愛情などを描いている。
派手なアクションや分かりやすい冒険を中心にした作品ではなく、登場人物の感情や人生の移ろいを丁寧に描く構成だ。
このような作品性は、深い感動を求める観客には大きな魅力になる。一方、家族向けの娯楽アニメや、テンポの速いファンタジーを期待した観客には、異なる印象を与える可能性がある。
ここが興行面での難しさだったと考えられる。
ただし、作品の上映時間や芸術性だけを理由に興行不振を断定することはできない。実際の観客動員には公開時期、宣伝、競合作品、鑑賞習慣など複数の要素が関係する。
【赤字の真相】興行収入24.7億円なら製作費51.5億円は回収できなかったのか
ここが「かぐや姫の物語大コケ」という検索ワードの核心だ。
製作費51.5億円に対し、興行収入24.7億円。数字だけを比較すると、製作費の半分にも届いていない。
しかし、映画の会計構造を理解すると、赤字額を単純に算出できない理由が見えてくる。
映画の興行収入は全額が制作側に入るわけではない
経済産業省の映画産業に関する資料では、一般的な映画興行の収益配分について、興行収入を100とした場合、劇場側が約50%、配給会社が約5〜15%、製作者側が約35〜45%を受け取る構造が紹介されている。
実際の契約条件や作品ごとの事情によって割合は異なるが、映画館で24.7億円を売り上げたからといって、制作側が24.7億円を受け取れるわけではない。
加えて、配給や宣伝に必要な経費も発生する。
劇場以外の収益も存在する
映画作品の収益源は、劇場公開だけではない。
- DVD・Blu-rayなどのパッケージ販売
- テレビ放送権
- 動画配信サービスへの提供
- 海外での上映・販売
- 関連商品やライセンス事業
こうした二次利用や海外展開からも収益が生まれる可能性がある。
実際、本作は2014年に北米公開されており、海外での映画賞ノミネートも獲得した。
ただし、海外展開やパッケージ販売があったという事実だけで、制作費を回収できたと判断することもできない。
最終的な赤字額は公表されているのか
ここは明確に区別する必要がある。
| 判断項目 | 現時点で分かること |
|---|---|
| 劇場興行収入 | 約24.7億円 |
| 製作費 | 約51.5億円 |
| 興行収入と製作費の差 | 約26.8億円 |
| 劇場収入だけでの製作費回収 | 非常に厳しい |
| 二次利用を含む総収益 | 作品単独の確定額は公表資料から判断できない |
| 最終的な純損益 | 公開されている数字だけでは確定できない |
したがって、正確な表現は「興行面では製作費に見合う成績を残せなかったが、最終的な赤字額は確定できない」となる。
大規模な制作投資に対して劇場興行が伸び悩んだという意味では商業的な苦戦だった。しかし、26.8億円の赤字が確定したという話ではない。
また、製作委員会方式では複数の出資企業が関わるため、映画単体の収益と各社の最終的な損益も必ずしも一致しない。
【評判と評価】アカデミー賞ノミネートが示した作品の実力と2026年最新評価
興行成績とは対照的に、『かぐや姫の物語』は国内外の映画関係者や批評家から高い評価を受けた。
その代表的な実績が、アカデミー賞へのノミネートである。
第87回アカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネート
2015年1月、第87回アカデミー賞の長編アニメーション賞候補として『かぐや姫の物語』が選ばれた。
日本のアニメーション映画として国際的な注目を集めた実績であり、宮崎駿監督作品以外の高畑勲監督作品が同部門にノミネートされたことも大きな意味を持つ。
受賞には至らなかったものの、世界的な映画賞で作品の芸術性が認められたことは、興行収入とは別の重要な成果だ。
加えて、第42回アニー賞では作品賞、監督賞、音楽賞の3部門にノミネートされた。音楽を担当した久石譲の仕事も国際的に注目された。
国内の映画賞でも評価された
日本国内では、第37回日本アカデミー賞で優秀アニメーション作品賞を受賞。久石譲も優秀音楽賞を受賞している。
単なる興行成績では測れない芸術的な評価を受けたことが分かる。
2026年の海外評価はどうなっている?
2026年11月時点で確認できる映画評価サイトの掲載状況にも注目したい。
Rotten Tomatoes100%
批評家スコア
95件のレビュー90%
観客スコア
1万人以上の評価
Rotten Tomatoes掲載値。批評家スコアは肯定的レビューの割合であり、平均点100点を意味するものではない。
Rotten Tomatoesでは、批評家スコア100%、観客スコア90%という高い数字が掲載されている。
また、国内の映画情報サイトKINENOTEでは、平均評点76.4点(1259人の評価)が掲載されている。
評価サイトによって利用者層や採点方法が異なるため、数字を直接比較することはできない。それでも、国内外で一定以上の支持を得ていることは読み取れる。
テレビ視聴率から見る作品の浸透度
映画の興行収入とは別に、テレビ放送の視聴率も興味深い。
本作の主なテレビ放送実績は次の通りだ。
- 2015年3月13日:世帯視聴率18.2%
- 2018年5月18日:世帯視聴率10.2%
- 2026年1月9日:世帯視聴率6.6%
2015年のテレビ初放送では18.2%という数字を記録した。高畑監督の作品がテレビ視聴者にも広く届けられたことを示す実績である。
そして2026年1月9日の放送では、ビデオリサーチの関東地区週間ランキングで世帯視聴率6.6%、個人視聴率4.3%を記録した。
2015年の初放送と比べると数字は低下しているものの、公開から12年以上が経過した作品が全国ネットの映画番組で放送され、一定の視聴者を集めたことは注目に値する。
テレビ視聴率は映画館での興行収入とは異なる指標だ。放送時間、番組編成、視聴環境などの影響を受けるため、数字が下がったことだけを理由に作品の評価が落ちたとは判断できない。
【プロの結論】『かぐや姫の物語』が残したものは興行収入だけでは測れない
『かぐや姫の物語』を評価する際には、興行成績、制作投資、芸術的成果という3つの軸を分けて考える必要がある。
興行収入24.7億円は、製作費51.5億円という規模に対して十分な数字とは言い難い。スタジオジブリの代表作と比較しても、商業的なインパクトは限定的だった。
しかし、同作の映像表現は、既存のアニメーション制作の枠組みに挑戦するものだった。
高畑勲監督は2018年4月5日に82歳で亡くなった。スタジオジブリが公式に紹介するように、『かぐや姫の物語』は監督の遺作となった。
高畑監督は、テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』『赤毛のアン』、映画『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』などを手がけ、人物の日常や感情を丹念に描く演出で知られていた。
本作は、そうした長年の創作活動の集大成ともいえる作品だった。
興行的失敗と芸術的成功は両立する
映画ビジネスでは、製作費を回収し、さらに利益を生み出せるかが重要になる。
しかし、映画の価値は興行収入だけでは決まらない。
本作の場合、興行収入は製作費に届かなかった一方、アカデミー賞ノミネート、国内映画賞での評価、海外批評家からの支持という実績を残した。
この2つは矛盾しない。
商業的な成功を目指した映画としては厳しい結果だったとしても、映像芸術としての挑戦や後世への影響まで否定する理由にはならない。
どんな人におすすめできる作品なのか
おすすめできる人
- 日本の古典文学や『竹取物語』の新しい解釈に興味がある人
- 手描きアニメーションや水彩画風の映像表現を楽しみたい人
- 人物の心理や人生の意味をじっくり考える映画が好きな人
- 高畑勲監督の演出やスタジオジブリの歴史を知りたい人
好みが分かれやすい人
- テンポの速いアクションや冒険を期待する人
- 明快な勧善懲悪や分かりやすい結末を求める人
- 従来のジブリ作品に近いファンタジーを期待する人
作品の魅力を理解するには、興行収入の数字だけでなく、実際の映像表現や物語のテーマにも目を向ける必要がある。
【かぐや姫の物語は大コケだったのか】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『かぐや姫の物語』の興行収入はいくらですか?
A1:国内の興行収入は約24.7億円です。2013年11月23日に公開され、最初の週末には全国映画動員ランキングで初登場1位を獲得しました。
Q2:『かぐや姫の物語』の製作費は本当に50億円ですか?
A2:約50億円と報道されてきましたが、鈴木敏夫プロデューサーは実際には51.5億円だったと明かしています。制作期間は約8年に及びました。
Q3:『かぐや姫の物語』は赤字だったのですか?
A3:興行収入が製作費を大きく下回っているため、劇場興行だけで製作費を回収するのは非常に厳しい状況でした。ただし、配給や宣伝に関する費用、二次利用収入、出資企業への分配などが関係するため、最終的な赤字額は公開情報だけでは確定できません。
Q4:『かぐや姫の物語』はアカデミー賞を受賞しましたか?
A4:受賞ではなく、第87回アカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネートされました。また、第42回アニー賞でも3部門にノミネートされています。
Q5:『かぐや姫の物語』は高畑勲監督の遺作ですか?
A5:はい。2013年公開の本作は高畑勲監督の最後の監督作品です。監督は2018年4月5日に82歳で亡くなりました。
Q6:2026年の『かぐや姫の物語』のテレビ視聴率は何%でしたか?
A6:2026年1月9日の金曜ロードショーで放送された際、関東地区の世帯視聴率は6.6%、個人視聴率は4.3%でした。2015年のテレビ初放送時は世帯視聴率18.2%でした。
まとめ:『かぐや姫の物語』は興行的苦戦と芸術的成功を併せ持つ作品
『かぐや姫の物語』は、興行収入約24.7億円に対して製作費が実質51.5億円という、非常に大きな制作投資を行った映画だった。
公開初週には首位を獲得したものの、最終的な興行規模は制作費に見合うものとはならなかった。その意味では、商業的に苦戦した作品という評価は妥当だろう。
しかし、アカデミー賞長編アニメーション賞へのノミネート、国内映画賞での受賞、海外批評家からの高評価など、作品としての実績は決して小さくない。
2026年現在も、高畑勲監督の遺作として、そして日本のアニメーション表現に新しい可能性を示した作品として語り継がれている。
『かぐや姫の物語』は、興行面では大成功とは呼べない。しかし、作品そのものまで大コケと断定するのは適切ではない。
興行収入と作品評価は別の物差しで見るべきだということを、この映画は強く示している。