警察官の顔や姿を撮影・公開した場合、状況によっては肖像権侵害を理由に民事上の責任を問われる可能性がある。
反対に、警察が市民の肖像権やプライバシー権を違法に侵害した場合にも、損害賠償の問題が生じる。
民法709条・710条による損害賠償
民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合の損害賠償責任を定めている。
民法710条は、身体、自由、名誉などを侵害した場合の精神的損害についても賠償責任が生じ得ることを定めている。
警察官の肖像権を侵害したと認められる場合、被害を受けた警察官は、具体的な事情に応じて次のような請求を検討できる。
- 慰謝料などの損害賠償請求
- 公開された写真や動画の削除請求
- 名誉毀損などが併存する場合の別途の損害回復
ただし、警察官が映っている動画を投稿したという事実だけで、必ず賠償責任が生じるわけではない。撮影・公開の目的、方法、公益性、被害の程度などを総合的に判断する必要がある。
警察が市民を違法に撮影した場合は国家賠償法も問題になる
警察官による違法な写真撮影や動画撮影によって、市民の権利が侵害された場合には、国家賠償法1条が関係する。
同条は、公権力の行使に当たる公務員が職務上、故意または過失によって違法に他人に損害を与えた場合、国または公共団体が賠償責任を負うことを定めている。
したがって、警察による撮影が違法だったと主張する場合には、撮影の必要性、緊急性、方法の相当性、職務上の注意義務違反などが検討対象となる。
もっとも、撮影が本人の同意なく行われたというだけで、直ちに国家賠償が認められるわけではない。京都府学連事件の判断基準などに照らした具体的な検討が必要だ。
損害賠償を考える際に保存しておきたい証拠
警察官による違法な撮影を疑う場合も、警察官を撮影した動画の公開をめぐってトラブルになった場合も、客観的な記録が重要になる。
特に次の情報は、後から事実関係を整理するうえで役立つ。
- 撮影された日時と場所
- 撮影を開始した理由や目的
- 撮影時の警察官と本人の発言
- 撮影された映像の原本
- SNSに投稿された内容や公開日時
- 削除要請や警察への相談などの経緯
- 撮影によって生じた具体的な被害
警察官が市民を撮影した場合には、どのような理由で撮影したのか、撮影データがどのように管理・利用されているのかも重要な論点となる。
一方、警察官を撮影した市民が投稿をめぐって責任を問われた場合には、編集前の原本や、投稿時の説明文、公開目的を示す資料などが問題になる。
【2026年最新】警察官撮影に関する法律と判断基準

2026年11月現在、警察官の撮影に関する法的判断では、従来の最高裁判例と現行法令の双方を確認する必要がある。
特に注意したいのが、2026年に施行された刑事訴訟法の改正だ。
2026年の法改正で確認すべきポイント
2026年7月24日に公布された刑事訴訟法の一部改正法(令和8年法律第67号)は、段階的に施行されている。
同法は電磁的記録提供命令など、デジタル証拠に関係する捜査手続にも関わる改正を含む。
この改正により、刑事訴訟法218条の条文構成も変わり、被疑者の写真撮影に関する特則は現行の4項に置かれている。
ただし、この改正によって警察が一般市民を自由に撮影できるようになったわけではない。
京都府学連事件が示した肖像に関する保護と、犯罪捜査における撮影の必要性・緊急性・相当性という基本的な考え方は、引き続き重要である。
2026年時点で覚えておきたい判断の目安
警察官を撮影する側と、警察が市民を撮影する側では、判断の出発点が異なる。
| 判断する場面 | 主な判断基準 | 注意点 |
|---|---|---|
| 市民が警察官を撮影 | 撮影目的、場所、方法、職務への影響 | 公務中でも肖像権は残る |
| 市民が警察官の動画を公開 | 公益性、編集方法、公開範囲 | 名誉毀損やプライバシー侵害にも注意 |
| 警察が市民を撮影 | 捜査目的、証拠保全の必要性、緊急性 | 京都府学連事件の基準が重要 |
| 身柄拘束中の被疑者を撮影 | 刑事訴訟法218条4項 | 裸にしない写真撮影の特則 |
| 職務質問中に撮影をめぐり対立 | 撮影の適法性、暴行・脅迫の有無 | 撮影と公務執行妨害は別問題 |
| 違法な撮影による損害 | 民法709条・710条、国家賠償法1条 | 違法性や損害などの立証が必要 |
このように、警察官の撮影をめぐる法律問題は、単純に「撮影できる」「撮影できない」という二択では整理できない。
重要なのは、誰が誰を撮影したのか、どのような目的だったのか、どのように公開・利用されたのかを分けて検討することだ。
【警察肖像権】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:警察官をスマートフォンで撮影することは違法ですか?
撮影しただけで直ちに違法になるわけではない。職務質問や交通取り締まりなど、公務の状況を記録する目的で撮影することには正当性が認められる場合がある。ただし、撮影方法が威圧的であったり、警察官の職務を妨害したりする場合には別の問題が生じる。
Q2:警察官の顔にモザイクをかけずにSNSへ投稿してもよいですか?
一律に禁止されているわけではない。警察活動を検証する公益性や報道目的が認められる場合もある。一方、侮辱的な編集、個人情報の暴露、名誉毀損などがあれば違法となる可能性がある。顔を隠す必要性は映像の内容や公開目的によって判断する。
Q3:警察官が市民を無断で撮影することは許されますか?
常に許されるわけではない。最高裁昭和44年12月24日判決は、犯罪が現に行われているか、その直後であり、証拠保全の必要性と緊急性があり、撮影方法が相当である場合には、本人の同意や令状がなくても撮影が許容されることがあると判断した。撮影の目的や方法によって適法性は変わる。
まとめ:警察官の肖像権を正しく理解するための判断基準
警察官の肖像権を考える際に、最も重要なのは「公務員だから肖像権がない」という誤解を解消することだ。
警察官も個人であり、憲法13条に由来する人格的利益を有している。一方、職務中の警察官の行動には公共性があり、市民がその活動を記録して検証することには一定の社会的意義がある。
また、警察による市民の撮影にも法的な限界がある。最高裁昭和44年12月24日判決は、犯罪の現行性・時間的近接性、証拠保全の必要性・緊急性、撮影方法の相当性という重要な基準を示した。
2026年11月現在、実際の場面では次の4点を押さえておきたい。
1. 撮影と公開を分ける: 撮影が適法でも、SNS投稿が当然に適法になるわけではない。
2. 警察官にも肖像権がある: 公務中という事情は判断材料だが、権利が消滅するわけではない。
3. 警察の撮影にも必要性が求められる: 捜査目的だけでなく、証拠保全の必要性や撮影方法の相当性が重要になる。
4. 記録と権利保護を両立する: 原本を保存し、公開時には不要な個人情報や第三者の顔を適切に処理する。
【プロの結論】
警察官の撮影をめぐる本質的な問題は、肖像権と公務の透明性をどう両立させるかにある。
市民には警察活動を記録し、適正な職務執行を検証する利益がある。警察官には、職務を遂行する立場であっても個人として尊重される利益がある。そして警察には、犯罪捜査や証拠保全を行う責務と同時に、市民の権利を不当に侵害しない責務がある。
この3つの利益を切り離さずに考えることが、警察官の肖像権を正しく理解するための出発点だ。
撮影の自由を守ることと、他人の人格を尊重することは対立するものではない。2026年以降も、法律と判例に基づいて、撮影の必要性と公開の相当性を個別に判断する姿勢が求められる。