妊娠が分かったのに、吐き気も嘔吐もなく、食欲も普段とほとんど変わらない。「妊娠初期なのにつわりがないけれど、赤ちゃんは順調に育っているのだろうか」と不安になる妊婦さんは少なくありません。一方、周囲につわりが重い人がいると、自分だけ症状がないことに違和感を覚えることもあるでしょう。
実際、つわりには大きな個人差があり、妊娠してもほとんど症状が出ない人もいます。ホルモンへの感受性や遺伝的な要因、妊娠週数などが関係すると考えられていますが、つわりがないことだけで流産や赤ちゃんの健康状態を判断することはできません。2026年10月時点の厚生労働省やこども家庭庁の情報、医学研究をもとに、つわりがない理由、割合、流産・ダウン症との関係、受診が必要な症状まで詳しく解説します。
【特徴を解説】つわりがない人にはどのような共通点がある?

つわりがない人について、医学的に確立された特定の体質や性格があるわけではありません。ただし、妊娠に伴うホルモンの変化に対する身体の反応には個人差があり、それが症状の違いに関係すると考えられています。
1. ホルモンの変化に対する感受性に個人差がある
妊娠すると、胎盤などから分泌されるホルモンが増加します。その変化を身体がどの程度敏感に受け取るかは、人によって異なります。
同じようなホルモン環境でも、強い吐き気を感じる人もいれば、ほとんど不快感を覚えない人もいます。
そのため、つわりがないからといってホルモンが十分に分泌されていない、あるいは妊娠が順調ではないと決めつけることはできません。
2. 遺伝的な要因が関係している可能性がある
つわりの程度には遺伝的な要因も関係すると考えられています。
2023年12月に学術誌『Nature』で発表された研究では、妊娠中の吐き気や嘔吐、特に重症の妊娠悪阻に関係する因子として、GDF15というホルモンに注目しました。
この研究では、胎児・胎盤由来のGDF15と母体側の感受性が、吐き気や嘔吐の程度に関係することが示されています。
つまり、つわりの強さは単純に母体の健康状態だけで決まるものではなく、母体と胎児・胎盤の双方に関係する複雑な仕組みが影響しているのです。
ただし、この研究はつわりのない人を直接分類するためのものではありません。遺伝子検査によって、つわりの有無を確実に予測できる段階にも至っていません。
3. 妊娠ごとに症状の出方が違う
1人目の妊娠ではつわりがなかったのに、2人目では強い吐き気に悩まされるケースもあります。
反対に、最初の妊娠では食事が取れないほどつらかったのに、次の妊娠ではほとんど症状がない場合もあります。
妊娠のたびにホルモン環境や身体の反応が異なるため、過去の妊娠経験だけで次のつわりを予測することは困難です。
4. 吐き気以外の妊娠初期症状が出ている場合もある
本人は「つわりがない」と感じていても、実際には吐き気以外の症状が現れていることがあります。
例えば、次のような変化です。
- 以前より眠くなった
- 疲れやすくなった
- においに敏感になった
- 食べ物の好みが変わった
- 胸が張るようになった
- 食欲が増えたり減ったりする
つわりは嘔吐だけを指すものではありません。吐き気がなくても、妊娠に伴う身体の変化を感じている人はいます。
大切なのは、つわりの強さを妊娠の順調さを測る基準にしないことです。
【割合を検証】つわりがない人は珍しい?妊婦の何割に見られる?
つわりがないと、自分だけが特別なのではないかと心配になることがあります。
しかし、医学的な資料を見ると、つわりを経験しない、あるいはほとんど自覚しない妊婦さんは一定数存在します。
つわりがある人・ない人の割合
こども家庭庁が公開している妊娠・出産に関する情報では、つわりは妊娠初期の妊婦さんの半数以上に見られる一般的な症状と説明されています。
一方、医学文献では、つわりを経験する妊婦の割合はおおむね50〜80%と紹介されています。つまり、調査方法や症状の定義によって差はありますが、つわりがほとんどない人も一定数いるということです。
加えて、日本のエコチル調査に関連する研究成果では、妊娠12週頃までにつわりがなかったと回答した人の割合も報告されています。
| 調査・資料 | 対象・結果 | 読み取れること |
|---|---|---|
| こども家庭庁の妊娠情報 | 妊婦の半数以上につわりが見られる | つわりは一般的な妊娠初期症状 |
| 医学文献の一般的な推計 | 妊婦の約50〜80%が何らかの症状を経験 | 症状の有無や程度には幅がある |
| 日本のエコチル調査関連研究 | 正期産となった単胎妊娠91,675人のうち17.1%がつわりなしと回答 | 大規模調査でも症状がなかった人が確認されている |
エコチル調査関連の数値は、すべての妊婦を対象にした全国一律の割合ではありません。正期産となった単胎妊娠の集団における回答結果であり、対象や調査条件によって割合は変わります。
したがって、つわりがない人は極めて珍しいというわけではありません。症状がないことだけで異常を疑う必要はないのです。
妊娠何週目までつわりがなければ珍しい?
つわりが始まる時期にも個人差があります。
一般的には妊娠5〜6週頃から症状が現れ、妊娠8〜12週頃に強くなる人が多いとされています。その後、妊娠12〜16週頃に自然と軽くなるケースが一般的です。
ただし、妊娠7週や8週になっても吐き気がない人もいます。
妊娠初期につわりが始まらなかったからといって、その後も必ず症状が出ないとは限りません。反対に、妊娠期間を通してほとんどつわりを経験しない人もいます。
妊娠週数と症状の出方を周囲と比較する必要はありません。
【医学的な理由】つわりがないのはなぜ?ホルモンと体質の関係
つわりが起こる仕組みは、現在も研究が続いている分野です。
以前から妊娠に伴うホルモン変化が関係すると考えられてきましたが、近年はGDF15などの分子に関する研究も進んでいます。
hCGとつわりの関係
hCGはヒト絨毛性ゴナドトロピンと呼ばれるホルモンです。
妊娠が成立すると胎盤の絨毛などから分泌され、妊娠初期に増加します。
厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」では、hCGの変動とつわりの発症時期が一致することなどから、つわりとの関係が指摘されています。
双胎妊娠など、hCGの値が高くなる状況ではつわりが強くなる傾向も知られています。
ただし、hCGの数値とつわりの強さが必ず比例するわけではありません。
つわりがない人についても、症状だけからhCGの分泌量や胎児の状態を推測することはできません。
GDF15に関する研究が示した新しい知見
つわりの仕組みを理解するうえで注目されているのがGDF15です。
2024年1月に『Nature』に掲載された研究では、妊娠中の吐き気や嘔吐とGDF15の関係が詳しく検証されました。
主な知見は次のとおりです。
- 妊娠中の母体血中のGDF15濃度は、吐き気や嘔吐のある人で高い傾向が確認された。
- 母体血中のGDF15の大部分は胎児・胎盤由来と考えられる。
- 妊娠前のGDF15への曝露や母体の感受性が、妊娠悪阻の発症リスクに関係する可能性が示された。
これらの研究は、つわりが単純に気持ちの問題や体力の問題ではないことを示しています。
2026年には、重症妊娠悪阻について10,974人の症例と461,461人の対照群を解析した多集団ゲノム研究も報告されています。GDF15を含む複数の遺伝的関連が検討されており、つわりの重症化に関する研究はさらに進んでいます。
ただし、これらは主に重症の吐き気・嘔吐に関する研究です。つわりがない人の健康状態や胎児の染色体を判定する検査ではありません。
ストレスや生活環境も影響する?
厚生労働省の母性健康管理に関する情報では、におい、換気不足、高温多湿、騒音、強い緊張を伴う作業環境などが、つわりの症状を悪化させる要因として紹介されています。
精神的な負担や生活環境によって、症状の感じ方が変わることもあります。
ただし、ストレスが少ないからつわりがない、体力があるからつわりにならないという単純な関係ではありません。
つわりがないことを、身体の強さや健康状態の優劣に結び付ける医学的根拠はありません。
【流産・ダウン症との関係】つわりがないと赤ちゃんに問題がある?
妊娠初期につわりがない人が特に心配するのが、流産や赤ちゃんの染色体異常との関係です。
ここは、症状と医学的な診断を分けて考える必要があります。
つわりがないと流産しやすいのか
つわりがないからといって、流産していると判断することはできません。
一部の観察研究では、妊娠中の吐き気や嘔吐がある人のほうが妊娠継続率が高い傾向が報告されています。
しかし、こうした統計上の関連は、個々の妊婦さんの妊娠経過を判定できるものではありません。
2016年に『Human Reproduction』で発表された研究では、妊娠初期の症状と流産との関係が調査されました。嘔吐と流産率の低下には関連が見られた一方、吐き気だけでは同様の関連が明確ではありませんでした。
また、2020年に発表された701人を対象とする前向き研究では、妊娠6〜8週に出血と吐き気の欠如が重なった場合、妊娠喪失との関連が示されました。
ただし、これは出血と症状の組み合わせに関する研究であり、つわりがないだけの人にそのまま当てはめられるものではありません。
重要なのは、つわりの有無だけで流産を診断することはできないという点です。
つわりがないとダウン症の可能性が高くなる?
つわりがないことと、ダウン症候群(21トリソミー)との間に、医学的に確立された診断上の関係はありません。
つわりの強さは、母体のホルモンへの感受性など複数の要因に左右されます。
一方、ダウン症候群は胎児の染色体に関係する状態です。
両者は異なる医学的な問題であり、つわりの有無から赤ちゃんの染色体の状態を判断することはできません。
赤ちゃんの染色体について知りたい場合には、妊婦さんの希望や状況に応じて出生前検査を検討します。
こども家庭庁の妊娠中の検査に関する情報では、NIPTなどのスクリーニング検査や、羊水検査・絨毛検査などの確定的検査が紹介されています。
つわりがないことを理由に、ダウン症の可能性が高いと考える必要はありません。
つわりがなくても赤ちゃんは順調に育つ?
もちろん、つわりがほとんどなくても正常に妊娠が継続し、出産に至るケースはあります。
妊娠中の健康状態は、吐き気の有無だけでは評価できません。
妊婦健診では、妊娠週数に応じて胎児の大きさや心拍、母体の状態などを確認します。
自覚症状が少ない人も、定期的な妊婦健診を続けることが大切です。
【急につわりがなくなった】妊娠初期の出血・腹痛は要注意?
最初からつわりがない場合と、今まで続いていたつわりが急になくなった場合では、気になるポイントが異なります。
特に注意したいのは、体調の変化に出血や腹痛などが伴っているケースです。
急につわりがなくなるのは流産のサイン?
つわりは妊娠週数によって変化します。
妊娠12〜16週頃になると自然に軽くなる人が多く、日によって吐き気の強さが違うことも珍しくありません。
そのため、昨日まで気持ち悪かったのに今日は平気というだけで、流産を疑う必要はありません。
一方、流産の一つである稽留流産は、出血や腹痛などの自覚症状がほとんどない場合もあります。
日本産婦人科医会の解説でも、稽留流産は超音波検査によって発育停止などを確認して診断するものとされています。
つまり、つわりが続いていても妊娠経過に問題が生じることはあり、つわりが急になくなっても正常な妊娠経過である場合があります。
症状だけでは判断できないため、不安が強い場合は産婦人科に相談しましょう。
妊娠初期の出血がある場合
妊娠初期には少量の出血が見られることがあります。
ただし、出血にはさまざまな原因があり、正常な妊娠経過で起こるものもあれば、切迫流産や異所性妊娠(子宮外妊娠)などが関係するものもあります。
こども家庭庁も、妊娠中の性器出血については自己判断せず、医療機関に相談するよう案内しています。
次のような症状があれば、早めに産婦人科へ連絡してください。
- 少量でも出血が続いている
- 鮮血の出血が見られる
- 出血量が増えている
- 下腹部痛が続いている
- 生理痛より強い痛みがある
特に、強い腹痛や片側に偏った痛み、肩の痛み、めまい、失神、大量出血などがある場合は、異所性妊娠など緊急性の高い状態も考えられます。
夜間や休日でも、医療機関にすぐ連絡し、必要に応じて救急受診してください。
症状別の受診目安
| 症状 | 対応の目安 |
|---|---|
| 最初からつわりがない | 定期健診を継続。心配なら担当医に相談 |
| 一時的につわりが軽くなった | 他の症状がなければ経過を確認。気になる場合は相談 |
| 急につわりがなくなり不安が強い | 産婦人科に連絡して受診時期を相談 |
| 少量の出血がある | 産婦人科に連絡して受診の必要性を確認 |
| 出血と腹痛が同時にある | 速やかに医療機関へ連絡 |
| 強い腹痛・大量出血・失神 | 緊急受診。必要に応じて救急車を要請 |
つわりの有無だけで判断せず、出血や痛みなどを含めて身体の変化を確認が必要です。
【妊婦健診と超音波検査】つわりがない人が確認しておきたいこと
つわりがない人にとって、赤ちゃんの状態を確認できる機会が妊婦健診です。
症状がないからといって健診を先延ばしにしたり、受診を省略したりする必要はありません。
超音波検査で何が分かる?
妊娠初期の超音波検査では、主に次のような項目を確認します。
- 子宮内に妊娠しているか
- 胎嚢の位置や状態
- 胎芽の大きさ
- 胎児の心拍
- 妊娠週数の推定
- 多胎妊娠の有無
日本産科婦人科学会の産科診療ガイドラインでは、妊娠初期の通常超音波検査について、異所性妊娠や流産などの異常妊娠の有無、妊娠週数、胎児数などを確認する目的が示されています。
つわりがあるかどうかよりも、こうした客観的な検査結果が妊娠経過を確認するうえで重要です。
妊婦健診はどのくらいの頻度で受ける?
こども家庭庁が紹介する標準的な妊婦健診の受診頻度は、次のとおりです。
- 妊娠初期〜23週:4週間に1回
- 妊娠24〜35週:2週間に1回
- 妊娠36週〜出産:1週間に1回
出産までにおおむね14回程度の健診が推奨されています。
ただし、出血や腹痛などの異常がある場合は、次回の健診日を待たずに相談する必要があります。
つわりがない人も知っておきたい妊娠悪阻
つわりがない人にとっては反対の症状になりますが、つわりが重症化した妊娠悪阻についても知っておきたいところです。
妊娠悪阻は、通常のつわりよりも症状が強く、食事や水分を十分に取れなくなるなど、全身状態に影響が出る状態です。
厚生労働省の母性健康管理に関する情報では、次のような症状が注意すべきサインとして紹介されています。
- 繰り返し嘔吐して水分が取れない
- 尿の量が極端に少ない
- 急激に体重が減少する
- 口や皮膚が乾燥している
- めまいやふらつきがある
- 頭痛や意識状態の変化がある
特に、1週間に約2kgの体重減少がある場合や尿中ケトン体が陽性の場合は、重症化のおそれがあるため医療機関への相談が必要です。
妊娠悪阻は我慢して乗り切るものではありません。水分が取れないなどの症状があれば、早めに診察を受けましょう。
【よくある質問】つわりがない人の特徴に関するFAQ
Q1:妊娠7週や8週になってもつわりがないのは普通ですか?
A1:珍しいことではありません。つわりが始まる時期や症状の程度には個人差があり、妊娠7〜8週でもほとんど吐き気がない人はいます。つわりがないことだけで赤ちゃんの発育に問題があるとは判断できません。
Q2:つわりがない人は流産しやすいのでしょうか?
A2:つわりがないという理由だけで、流産しやすいと判断することはできません。一部の研究では吐き気や嘔吐と妊娠継続率との関連が報告されていますが、個人の妊娠経過を判定する指標ではありません。出血や強い腹痛がある場合は産婦人科へ連絡してください。
Q3:つわりがないとダウン症の可能性が高いですか?
A3:そのような医学的根拠はありません。つわりの有無とダウン症候群の診断は別の問題です。赤ちゃんの染色体について知りたい場合は、担当医に相談し、必要に応じて出生前検査を検討してください。
まとめ:つわりがないことだけで妊娠の順調さを判断しない
つわりがない人には、ホルモンへの感受性や遺伝的要因など、身体の反応に個人差があると考えられています。妊娠初期からほとんど症状がない人もおり、決して特別なことではありません。
また、つわりの有無だけで流産やダウン症の可能性を判断することもできません。妊娠の経過を確認するには、妊婦健診や超音波検査などの医学的な評価が必要です。
特に覚えておきたいのは、次の3点です。
1. 最初からつわりがない場合: 症状の個人差として見られることがあり、過度に心配する必要はない。
2. 急につわりがなくなった場合: それだけで流産とは判断できないが、出血や腹痛があれば早めに受診する。
3. 赤ちゃんの健康状態が気になる場合: 自覚症状ではなく、定期的な妊婦健診と超音波検査で確認する。
妊娠中は、つわりが重くても軽くても、不安を感じることがあります。周囲の妊婦さんと症状を比べるのではなく、自分の身体の変化を大切にしながら、必要なときには医療機関に相談してください。
つわりがないことを理由に、自分を責めたり、赤ちゃんの健康を悲観したりする必要はありません。安心して妊娠生活を送るためにも、決められた妊婦健診を受け、医師と一緒に赤ちゃんの成長を確認していきましょう。
主な医学的参考資料
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」つわり・妊娠悪阻に関する情報
- こども家庭庁「妊娠中の検査に関する情報サイト」
- 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン―産科編」
- 日本産婦人科医会「稽留流産の診断」
- Fejzo M. et al., Nature, 2024, GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy
- Sapra K.J. et al., Human Reproduction, 2016, Signs and symptoms associated with early pregnancy loss
- Vaginal bleeding and nausea in early pregnancy as predictors of clinical pregnancy loss, 2020