デニーズと江口寿史氏の関係は、2025年の問題発覚よりもはるかに長い歴史を持っています。
江口氏は漫画家としてだけでなく、洗練された女性像やファッション表現を得意とするイラストレーターとしても知られています。デニーズは、その独特の作風をブランドイメージに取り入れ、長期間にわたってメニューブックなどのビジュアルを依頼してきました。
1992年から1997年まで続いた最初の起用
デニーズの公式資料によると、江口氏がメニューブックの表紙などを担当したのは1992年から1997年までです。
当時のイラストは、料理の写真を中心に構成する一般的な飲食店のメニューとは異なり、人物の魅力やファッション性を前面に押し出したものでした。
その後、長い期間を経て、デニーズ創業50周年の記念企画として再び起用されます。
2023年9月、約27年ぶりの復活
2023年9月12日、デニーズは江口氏の描き下ろしイラストをメニューブックの表紙に採用しました。
これは創業50周年記念企画の一環です。
過去に江口氏のイラストを見ていた世代にとっては懐かしさがあり、若い世代にとっては新鮮なブランドビジュアルとして受け止められる企画でした。
2024年9月にはポスター3種類も展開
2024年9月26日には、グランドメニューの改定に合わせて新しい表紙デザインを採用。加えて、江口氏がデザインした店内ポスターを3種類制作しました。
店舗ごとに異なるポスターを掲出する仕組みで、来店するたびに違うデザインを楽しめるという企画でした。
セブン&アイ・フードシステムズの2024年9月25日付プレスリリースでは、2023年の再起用時に懐かしむ声が多く寄せられたことが、継続起用の背景として説明されています。
【問題の発端】2025年10月、なぜ江口寿史氏のイラストが問題になったのか

問題が大きく表面化したきっかけは、2025年10月に発生したルミネ荻窪のイベント告知ビジュアルをめぐる騒動でした。
江口氏が制作したイベント用イラストについて、SNS上の女性の写真を参考にしていたことが明らかになり、写真の撮影者やモデルへの許諾をめぐって議論が広がりました。
この件を受けて、過去に江口氏の作品を広告に使用していた企業も、制作経緯の確認を始めました。
デニーズもその一社です。
デニーズが2025年10月6日に使用見合わせを発表
デニーズジャパンは2025年10月6日、公式ニュースリリースで広告等媒体物に使用していた江口氏のイラストについて、使用を控える対応を発表しました。
当時は、2023年と2024年の作品について調査が完了していない段階でした。
発表では、制作過程の確認を進めていることに加え、問題が与える影響を考慮して使用を見合わせる判断をしたと説明しています。
つまり、この時点で2023年・2024年の作品すべてに無許諾引用が確認されていたわけではありません。
使用見合わせの理由は何だったのか
大きな理由は、既存の広告作品について制作過程の確認が必要になったことです。
企業広告の場合、完成したイラストの見た目だけでなく、制作時に参考にした素材の権利関係も確認する必要があります。
特にメニューブックやポスターは、店舗内外で不特定多数の人の目に触れる商業媒体です。
制作経緯に疑義が生じた状態で掲載を続ければ、広告主である企業自身の信頼にも影響します。
そのため、デニーズは調査結果がまとまる前に、先行して使用見合わせを決めたと考えられます。
この判断は、10月6日付のデニーズジャパンの公式発表でも確認できます。
【公式調査結果】2023年と2024年のイラストで何が違ったのか
この問題を理解するうえで最も重要なのが、デニーズジャパンが2025年11月7日に公表した調査結果です。
同社は、2023年9月に納品された作品だけでなく、2024年9月に納品された作品についても、関係各社間で調査を行いました。
その結果、両年の作品では異なる回答が示されています。
2023年の作品:商業雑誌の写真を無許諾で引用
デニーズの公式発表によると、2023年9月に納品されたイラストについて、江口氏から次の説明があったとされています。
権利関係の許諾の必要性についての認識はなく、人物部分に関して商業雑誌からの引用でイラスト制作を行った。
ここで重要なのは、引用されたと説明されているのが、イラスト全体ではなく人物部分であることです。
また、江口氏は権利関係の許諾が必要であるという認識を持っていなかったと説明しています。
デニーズは、この説明を受けて制作物に対する確認体制に不備があったと認めました。
2024年の作品:特定の写真からの引用はないとの回答
一方、2024年9月に納品されたイラストについては、江口氏から異なる回答がありました。
雑誌等特定の写真からの引用はない。
つまり、2024年のメニューブックやポスターについては、2023年と同じ無許諾引用があったという調査結果にはなっていません。
ここを混同すると、今回の問題の理解を誤ります。
公式調査結果の比較
| 比較項目 | 2023年9月の作品 | 2024年9月の作品 |
|---|---|---|
| 使用媒体 | メニューブック・ポスター | メニューブック・ポスター |
| 調査内容 | 写真引用の可能性を調査 | 同様に調査 |
| 江口氏の回答 | 人物部分に商業雑誌の写真を引用 | 特定の写真からの引用はない |
| 許諾に関する説明 | 許諾の必要性を認識していなかった | 特定写真の引用自体を否定 |
| デニーズの対応 | 確認体制の不備を認め謝罪 | 2023年作品とは異なる調査結果として公表 |
この比較から分かるのは、問題が江口氏の作品すべてに一律に認定されたものではないということです。
2023年分については、人物部分の写真引用が本人の説明によって明らかになりました。一方、2024年分については、特定の写真を引用していないという回答が公表されています。
なお、デニーズの発表には、引用元となった商業雑誌の具体的な名称や写真の撮影者、写真の掲載号などは記載されていません。
また、裁判所による著作権侵害の確定判決が発表されたわけでもありません。
【2025年11月7日の謝罪】デニーズが公表した再発防止策とは
今回の公式発表で、もう一つ重要なのがデニーズ自身の責任に対する言及です。
同社は、問題を江口氏個人の制作上の問題だけとして扱いませんでした。
広告主として、納品された作品の制作過程を確認する仕組みに不備があったと認めています。
デニーズが認めた確認体制の不備
公式発表では、次のように説明しています。
制作物に対する確認体制の不備が招いた事案であると猛省し、今後は同様の事態を繰り返さぬよう、広告デザインの制作過程の再点検、および管理体制の強化を徹底してまいります。
この文章には、企業側の責任に関する要点が含まれています。
広告制作では、イラストレーターが制作した作品を受け取るだけでは、すべての権利関係を確認したことにはなりません。
制作物の確認、使用素材の確認、写真の権利者への許諾、人物の肖像に関する確認など、複数の段階が存在します。
特に、商業雑誌の写真を参考に制作する場合、写真家や出版社などの権利関係を整理する必要があります。
公表された再発防止策と未公表の部分
デニーズが明確に公表した対応は、次の2点です。
- 広告デザインの制作過程の再点検
- 広告制作に関する管理体制の強化
一方、具体的な運用方法については、詳しい説明がありません。
例えば、以下のような事項は公表資料からは判断できません。
- 制作に使用した写真や参考資料の一覧提出を義務化したか
- 納品時の権利確認書を新設したか
- 社内の法務担当者による事前審査を必須にしたか
- 広告代理店や外部クリエイターとの契約内容を変更したか
- 再発防止策の実施状況を定期的に監査しているか
したがって、再発防止を表明したことと、具体的な制度改革が完了したことは区別する必要があります。
江口氏への敬意は変わらないというデニーズの姿勢
同社の発表には、次の趣旨も記されています。
本件は長年ご一緒してきた江口氏の創作活動ならびに生み出された作品の数々に対する我々の敬意は、変わるものではございません。
これは、権利関係の問題への謝罪と、長年のクリエイターとの関係を切り分けた表現です。
問題となった制作経緯を認めて謝罪する一方で、江口氏の過去の創作活動すべてを否定するわけではないという姿勢が示されています。
また、引用元となった写真の制作に関与した人々を含め、関係者に対して重ねて謝罪しています。
【2026年最新】デニーズで江口寿史氏のイラストは現在も使われている?
2026年10月31日時点で気になるのが、過去のメニューブックやポスターが現在も店舗で使用されているのかという点です。
ここは、公式に発表された情報と、実際の店舗での掲出状況を分けて考える必要があります。
2026年の公式発表に再起用の告知はある?
デニーズジャパンの公式ニュース一覧では、2026年6月10日開始のグランドメニュー改定が確認できます。
この改定では、新たなブランドコンセプト「Denny's × Wellness」が掲げられ、メニュー内容が刷新されました。
ただし、2026年6月のグランドメニュー改定資料には、江口氏の新作イラストを表紙に採用するという記載はありません。
また、2026年10月31日までに確認できる公式ニュース一覧にも、江口氏のイラストの再起用を告知する発表は見当たりません。
現在の使用状況について分かっていること
| 確認項目 | 2026年10月31日時点の状況 |
|---|---|
| 2023年作品の新規起用 | 再起用の公式発表なし |
| 2024年作品の新規起用 | 再起用の公式発表なし |
| 新作イラストの制作発表 | 確認できない |
| 過去の印刷物の完全撤去 | 全店舗について確認できる公表資料なし |
| 2025年11月の再発防止方針 | 公式発表あり |
| 具体的な制度改革の詳細 | 詳細な公表なし |
現段階での正確な整理は、江口氏のイラストの再起用は公式に確認できず、過去の印刷物が全店舗から完全に撤去されたかどうかも公表情報だけでは判断できないというものです。
店舗ごとの保管状況や過去の印刷物の取り扱いまで、全国一律に断定することはできません。
今後、再起用の可能性はあるのか
デニーズは2025年11月7日の発表で、江口氏の創作活動や作品への敬意は変わらないと説明しています。
しかし、これは将来的な再起用を約束した発表ではありません。
再起用が実現する場合には、制作過程の透明性や写真の利用許諾など、企業としての権利確認が重要な判断材料になると考えられます。
【プロの結論】デニーズと江口寿史氏の問題から見える広告制作の本質
今回の問題は、単純に「トレースしたか、していないか」という二択だけでは理解できません。
重要なのは、既存の写真を参考にする創作行為と、その写真に関する権利を適切に処理することは別の問題だという点です。
1. 写真を参考にすることと無許諾利用は区別する
イラスト制作では、写真を参考資料として使うことがあります。
ポーズ、構図、服装、光の当たり方などを研究すること自体が、直ちに違法になるわけではありません。
しかし、写真の創作的な表現をそのまま再現したり、翻案したりする場合には、著作権上の問題が生じる可能性があります。
公益社団法人日本写真家協会も、写真をそっくりそのまま絵に描いて無断で公表する場合には、翻案権などの侵害となり得ると説明しています。
また、写真に写っている人物については、著作権とは別に肖像権などの問題もあります。
したがって、写真を参考にしたという事実だけで、すべての作品について著作権侵害が確定するわけではありません。
2. 商業広告ではクリエイターと発注企業の双方に確認責任がある
今回、デニーズが自社の確認体制の不備を認めたことには意味があります。
広告制作は、イラストレーターだけで完結するものではありません。
一般的には、次のような関係者が関わります。
- イラストレーター:作品の制作と使用素材の説明
- 広告代理店:制作進行や素材管理
- 広告主:納品物の確認と商業利用の管理
- 写真家・出版社:原写真に関する権利者
- モデル:肖像や写真利用に関係する権利者
一人の確認漏れが、最終的に企業ブランド全体の問題へと発展する可能性があります。
3. 再発防止で必要なのは制作過程の記録
今回のような問題を防ぐためには、完成したイラストだけでなく、制作過程も確認できる仕組みが有効です。
例えば、次のような管理方法が考えられます。
- 参考写真や素材の出典を記録する
- 写真の撮影者・出版社などの権利者を確認する
- 商業利用の範囲を契約書に明記する
- モデルの肖像利用について必要な同意を取得する
- 納品時に権利確認書を提出する
- 公開前に広告主と法務担当者がチェックする
これらはデニーズが実施済みと公表した施策ではなく、同社が掲げた制作過程の再点検と管理体制強化を実効性のあるものにするための具体的な考え方です。
最も重要なのは、著名なクリエイターに依頼しているからといって、企業側の権利確認を省略しないことです。
【FAQ】デニーズと江口寿史氏のイラスト問題に関するよくある質問
Q1:デニーズの江口寿史氏のイラスト問題は結局どうなった?
A1:2025年11月7日にデニーズジャパンが調査結果を公表しました。2023年の作品では人物部分に商業雑誌の写真を引用したとの江口氏の説明があり、2024年の作品については特定の写真からの引用はないとの回答でした。デニーズは確認体制の不備を認めて謝罪しています。
Q2:2023年のメニューブックはトレースだったの?
A2:デニーズの公式発表では、2023年のイラストの人物部分について商業雑誌から引用して制作したとの説明が公表されています。ただし、発表では具体的な雑誌名や写真の詳細、制作過程の技術的な検証内容までは明らかにされていません。
Q3:2024年のポスターにも無許諾写真引用があった?
A3:江口氏からは、2024年9月に納品された作品について、雑誌などの特定の写真からの引用はないとの回答があったとデニーズが発表しています。2023年の調査結果をそのまま2024年の作品に当てはめることはできません。
Q4:デニーズが江口寿史氏のイラストを使用しなくなったのはいつ?
A4:2025年10月6日です。制作過程の確認を進める中で、広告等媒体物における江口氏のイラストの使用を控えると発表しました。
Q5:2025年11月7日の公式発表で謝罪したのはなぜ?
A5:2023年の作品について無許諾の写真引用があったとの説明を受け、デニーズ自身も納品物の確認体制に不備があったと認めたためです。写真の制作に関与した人々を含む関係者に謝罪しました。
Q6:2026年現在、デニーズで江口寿史氏のイラストは見られる?
A6:2026年10月31日までに確認できる公式発表では、再起用は確認できません。ただし、全国の店舗における過去の印刷物の保管・掲出状況については、詳細が公表されていません。
Q7:デニーズは今後、江口寿史氏を再び起用する可能性がある?
A7:可能性を完全に否定する公式発表も、再起用を決定した公式発表も確認できません。2025年11月7日の発表では江口氏の創作活動への敬意を示していますが、今後の契約や広告起用については別の判断となります。
まとめ:デニーズと江口寿史氏の問題、2026年に押さえるべき事実
デニーズと江口寿史氏のイラスト問題は、2025年11月7日の公式調査結果によって、2023年と2024年の作品の違いが明らかになりました。
特に押さえておきたいのは、次の5点です。
1. デニーズは1992年から1997年まで江口氏を起用していた。
2. 2023年9月、創業50周年を機に約27年ぶりに起用を再開した。
3. 2025年10月6日、制作過程の確認を理由に広告等媒体物での使用見合わせを発表した。
4. 2025年11月7日、2023年作品の人物部分について商業雑誌からの写真引用があったとの説明を公表した一方、2024年作品については特定写真の引用はないとの回答を発表した。
5. デニーズは制作過程の再点検と管理体制の強化を表明したが、具体的な制度改革の詳細や再起用については明らかにしていない。
2026年10月現在、この問題を評価するうえで重要なのは、イラストの表現そのものと、制作に使用した素材の権利処理を分けて考えることです。
長年親しまれてきた作品であっても、商業利用における権利確認は欠かせません。そして、企業にはクリエイターへの敬意と同時に、広告主としての管理責任が大切です。
今後の注目点は、デニーズが公表した再発防止方針をどのように具体化するのか、そして江口氏の作品が再び企業広告に採用される動きがあるのかという2点です。
今回の問題の本質は、創作の自由と他者の権利をどう両立させるか、そして広告を世に出す企業がその確認責任をどう果たすかにあります。
主な参照資料:デニーズジャパン2025年10月6日付・11月7日付公式発表、セブン&アイ・フードシステムズ2023年・2024年プレスリリース、デニーズジャパン2026年公式ニュース、ITmedia NEWS、公益社団法人日本写真家協会。