順位戦A級は、将棋界の最高峰タイトル「名人」への挑戦者を決める、トップ棋士10人による最高クラスのリーグ戦です。2026年度に開催されている第85期A級順位戦では、永瀬拓矢九段と豊島将之九段が開幕から4連勝を記録。増田康宏八段も3勝1敗で追いかけており、名人挑戦権をめぐる争いが本格化しています。
一方、前期の名人戦挑戦者だった糸谷哲郎九段は1勝3敗、初のA級参戦となった伊藤匠二冠は0勝4敗と、残留争いにも注目が集まっています。この記事では、2026年11月2日時点の最新成績、参加棋士10人の顔ぶれ、プレーオフの条件、B級1組への降級制度、持ち時間6時間の対局の特徴まで、順位表を読み解くために必要な情報をまとめます。
【基礎知識】順位戦A級とは?名人への挑戦者を決める最高峰リーグ

順位戦A級は、日本将棋連盟が主催する名人戦・順位戦の最上位クラスです。単に棋士の実力を競うランキングではなく、翌年の名人戦七番勝負に出場する挑戦者を決定する役割を持っています。
順位戦には、A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組の5クラスがあります。棋士はそれぞれのクラスでリーグ戦を戦い、成績に応じて昇級や降級を経験します。
A級の優勝者は名人戦七番勝負に進出
A級で最も良い成績を収めた棋士には、名人への挑戦権が与えられます。挑戦者は現名人と七番勝負を戦い、先に4勝した棋士が名人の称号を獲得します。
2026年度の第85期では、第84期名人戦で藤井聡太名人に挑戦した糸谷哲郎九段が敗退者としてA級順位1位に入りました。第85期のリーグを勝ち抜いた棋士が、次の名人戦で藤井名人に挑戦することになります。
順位戦はA級からC級2組までの5段階
順位戦の特徴は、毎年の成績によって所属クラスが変わることです。A級はトップ10人を原則とする少数精鋭のリーグですが、下位クラスでは参加人数や対局数が異なります。
順位戦に参加しないフリークラスという制度もあります。したがって、プロ棋士であれば全員がA級からC級2組までのいずれかに所属しているわけではありません。
日本将棋連盟の規定では、順位戦の持ち時間は各6時間です。長時間の持ち時間を使って一局を深く読み進めるため、短時間の早指し棋戦とは異なる集中力と構想力が大切です。
【2026年最新】第85期A級順位戦の順位表と参加棋士10人の成績
第85期A級順位戦は2026年6月に開幕し、2027年3月まで続く予定です。原則10人の総当たり方式で、各棋士が9局を戦います。
以下は日本将棋連盟の第85期公式順位表を基準にした、2026年11月2日時点の成績です。10月30日の佐藤天彦九段対伊藤匠二冠戦までの結果を反映しています。
| 期初順位 | 棋士名 | 勝敗 | 現状の注目点 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 糸谷哲郎九段 | 1勝3敗 | 前期挑戦者。巻き返しが焦点 |
| 2位 | 永瀬拓矢九段 | 4勝0敗 | 開幕4連勝で首位争い |
| 3位 | 豊島将之九段 | 4勝0敗 | 開幕4連勝で首位争い |
| 4位 | 近藤誠也八段 | 2勝2敗 | 勝率5割で折り返しへ |
| 5位 | 増田康宏八段 | 3勝1敗 | 上位2人を追う好成績 |
| 6位 | 佐々木勇気八段 | 2勝2敗 | 今後の上位対決に注目 |
| 7位 | 千田翔太八段 | 0勝4敗 | 初白星と残留争いが課題 |
| 8位 | 佐藤天彦九段 | 2勝2敗 | 10月30日に伊藤匠二冠に勝利 |
| 9位 | 広瀬章人九段 | 2勝2敗 | 中位から上位進出を狙う |
| 10位 | 伊藤匠二冠 | 0勝4敗 | A級初参戦。厳しいスタート |
※順位は期初の序列であり、現在の勝ち星による成績ランキングとは異なります。勝敗は2026年11月2日時点のものです。
永瀬拓矢九段と豊島将之九段が4連勝で先頭に立つ
今期の大きな見どころは、永瀬拓矢九段と豊島将之九段がともに4勝0敗と好スタートを切ったことです。
永瀬九段は近藤誠也八段、伊藤匠二冠、佐々木勇気八段、広瀬章人九段を破り、開幕から無敗を維持しています。4局目では広瀬九段との対局を制し、4連勝に到達しました。
豊島九段も佐藤天彦九段、佐々木勇気八段、糸谷哲郎九段、増田康宏八段に勝利。特に4局目の増田八段戦は、3勝0敗同士の上位対決を制する重要な一局でした。
両者ともにまだ敗戦がなく、名人挑戦権を争う中心的な存在です。ただし、リーグは全9局のため、残り5局の結果によって勢力図が大きく変わる可能性があります。
糸谷哲郎九段と伊藤匠二冠は巻き返せるか
対照的なのが糸谷九段と伊藤二冠です。
糸谷九段は前期の名人戦挑戦者であり、今期は期初順位1位からスタートしました。しかし、開幕から広瀬九段、近藤八段、豊島九段に敗れ、4局目で千田八段に勝って初白星を挙げたものの、現在は1勝3敗です。
伊藤二冠は今期がA級初参戦。佐々木勇気八段、永瀬拓矢九段、近藤誠也八段、佐藤天彦九段に敗れ、0勝4敗となっています。
一方、増田康宏八段は3勝1敗と好調です。豊島九段との直接対決では敗れたものの、それ以外の3局で勝利しています。永瀬・豊島の2人にどこまで迫れるかが、今後の焦点になります。
第5回戦は11月16日から20日に開催予定
次の第5回戦では、以下の対局が予定されています。
- 11月16日:糸谷哲郎九段 対 永瀬拓矢九段
- 11月17日:千田翔太八段 対 佐々木勇気八段
- 11月18日:豊島将之九段 対 広瀬章人九段
- 11月19日:伊藤匠二冠 対 増田康宏八段
- 11月20日:近藤誠也八段 対 佐藤天彦九段
特に注目したいのは、糸谷九段と永瀬九段の一局です。前期の名人挑戦者と、今期無敗のトップランナーがぶつかります。糸谷九段にとっては残留争いから抜け出すためにも重要な対局です。
【仕組みを解説】A級順位戦の総当たり方式とプレーオフの条件
A級順位戦は、原則として10人が参加する総当たりリーグです。各棋士は他の9人と1回ずつ対局し、合計9局を戦います。
勝ち星が最も多い棋士が名人挑戦権を獲得します。ただし、最高成績者が複数いる場合には、単純に期初順位だけで挑戦者を決めるわけではありません。最高成績者全員がプレーオフに進出します。
2人が同率首位の場合は直接対決のプレーオフ
例えば、最終成績が8勝1敗で2人並んだ場合、2人によるプレーオフを行います。そこで勝利した棋士が名人への挑戦者となります。
リーグ戦での直接対決の結果だけで挑戦者が決まるわけではありません。仮にリーグ戦で一方が勝っていたとしても、最高成績者が同率になれば、規定に従ってプレーオフが実施されます。
3人以上の同率首位ならパラマス方式
3人以上が最高成績で並んだ場合は、日本将棋連盟が定めるパラマス方式を採用します。
具体的には、最高成績者のうち期初順位が下位の2人が最初に対局します。その勝者が次に順位上位の棋士と戦い、順番に勝ち上がって挑戦者を決める仕組みです。
この方式では、期初順位が低い棋士ほど挑戦者になるまでに多くの対局を勝ち抜く必要があります。単に勝敗数だけでなく、リーグ開始時点の順位もプレーオフの構造に影響する点が特徴です。
プレーオフが必要なのは名人挑戦権を決める場合
誤解しやすいのが、同じ勝敗の棋士が並んだら、すべてプレーオフになるという考え方です。
プレーオフが実施されるのは、名人挑戦権を争う最高成績者が複数いる場合です。中位や下位で勝敗が並んだ場合は、前期の順位を基準に順位が決まります。降級をめぐる同成績についても、原則として残留決定戦は行われません。
したがって、A級順位戦では、名人挑戦権を獲得するための勝負と、B級1組への降級を回避するための勝負で、同率時の扱いが異なります。
【降級制度】A級からB級1組へ落ちる条件と順位の決まり方
A級は名人への挑戦権を争うリーグであると同時に、残留をめぐる厳しい戦いの場でもあります。
日本将棋連盟の公式規定では、A級は原則として成績下位の2人がB級1組へ降級します。10人中2人が翌期にクラスを落とすため、上位争いと同じくらい残留争いも重要です。
降級は原則として下位2人
9局を終えた時点で成績下位となった2人が降級対象になります。例えば、最終成績が2勝7敗や1勝8敗などであれば、残留が厳しくなる可能性があります。
ただし、降級条件は特定の勝敗数で一律に決まるものではありません。他の棋士の成績との相対的な関係で、最終的な順位が決まります。
注意したいのは、勝ち越していても降級する可能性があることです。極端な例として、9人が5勝4敗、1人が0勝9敗という成績になった場合、5勝4敗の9人のうち、順位が最も下の棋士は挑戦者にならない限り降級対象になる可能性があります。
同じ勝敗なら前期の順位が優先される
A級順位戦では、同じ勝ち星・負け星になった場合、前期の順位を基準に序列を決めます。
このため、期初順位は単なる名簿上の番号ではありません。名人挑戦プレーオフの組み合わせや、降級をめぐる同成績の処理にも関係する重要な情報です。
なお、A級から降級した棋士は、原則として翌期のB級1組に所属します。A級の降級者とB級1組からの昇級者が入れ替わることで、毎期のリーグ構成が更新されます。
B級1組との違いは人数・対局数・昇降級枠
A級とB級1組は、どちらも総当たり方式を採用するクラスですが、参加人数や昇降級の条件が異なります。
- A級:原則10人。1人9局。最高成績者1人が名人挑戦権を獲得し、下位2人が降級。
- B級1組:原則13人。1人12局。成績上位2人がA級へ昇級し、下位3人がB級2組へ降級。
B級1組はA級への昇級を目指す棋士にとって最後の関門です。成績上位2人がA級へ進むため、リーグ戦の上位争いは非常に重要です。
なお、B級2組以下ではA級・B級1組とは異なり、原則として毎期決まった人数が直接降級する方式ではありません。参加人数に応じた降級点制度が採用され、一定数の降級点が累積すると下のクラスへ移ります。
【対局の特徴】持ち時間6時間と「将棋界の一番長い日」の意味
A級順位戦を観戦する際に知っておきたいのが、持ち時間と最終局の運営方法です。
日本将棋連盟の公式規定によると、順位戦の持ち時間は各6時間です。先手と後手がそれぞれ6時間を使えるため、一局の対局時間が長くなることも珍しくありません。
持ち時間各6時間が生む深い読み合い
持ち時間6時間という設定は、棋士が複雑な局面で十分に考える時間を確保するためのものです。
序盤の駒組みから中盤の攻防、終盤の寄せまで、局面ごとに深い読みが大切です。短時間で勝負を決める早指し棋戦と比べると、時間をかけた構想力や終盤の精度がより大きな意味を持ちます。
また、順位戦は年間を通じて複数局を戦う長期リーグです。一局の勝敗だけではなく、9局を通じた安定感も問われます。
将棋界の一番長い日はA級最終局
A級順位戦の最終局は、将棋ファンの間で「将棋界の一番長い日」と呼ばれています。
この呼び名が定着した背景には、名人挑戦権と降級という将棋界でも特に重要な結果が、同じ日の複数の対局によって決まるという事情があります。
日本将棋連盟の規定では、A級の最終戦とその一局前は一斉に行われます。特に最終局では、全員が同じタイミングで対局に臨むことで、他の対局結果を見ながら有利不利を判断することを防ぎ、公平性を保っています。
2026年度の第85期では、最終局が2027年3月3日、最終局の一つ前の対局が2027年2月1日に予定されています。
最終局には、名人挑戦権を争う棋士だけでなく、降級回避を目指す棋士も登場します。複数の対局の勝敗が互いに影響するため、観戦する側にとっても最後まで目が離せない一日になります。
近年の名人挑戦者から見るA級の歴史
A級順位戦の魅力は、毎年のリーグ戦が名人戦七番勝負へ直結することです。過去の挑戦者を振り返ると、各時代のトップ棋士が名人への挑戦権を争ってきたことが分かります。
- 第81期:渡辺明九段が藤井聡太名人に挑戦。
- 第82期:豊島将之九段が藤井聡太名人に挑戦。
- 第83期:永瀬拓矢九段が藤井聡太名人に挑戦。
- 第84期:糸谷哲郎九段が藤井聡太名人に挑戦。
日本将棋連盟の過去の名人戦記録によると、第83期は藤井名人が4勝1敗、第84期は4勝0敗で防衛しています。
第85期のA級順位戦は、これらの挑戦者に続く新たな挑戦者を決めるリーグです。永瀬九段や豊島九段が挑戦権を獲得するのか、あるいは別の棋士が逆転するのか、今後の対局が注目されます。
【プロの結論】第85期A級順位戦で本当に注目すべきポイント
第85期の順位表から読み取れるのは、A級順位戦が単純な勝率ランキングではないということです。
期初順位、現在の勝敗、残りの対戦相手、プレーオフの可能性、降級枠の位置関係。これらを合わせて見ることで、各棋士が置かれている状況をより正確に理解できます。
注目ポイント1:永瀬と豊島の直接対決
現時点で4勝0敗の永瀬九段と豊島九段は、最終局の2027年3月3日に直接対決する予定です。
両者がこのまま勝ち星を積み重ねれば、最終局は名人挑戦権を左右する重要な一戦になる可能性があります。ただし、そこまでに他の対局で敗れることもあり得るため、最終局だけでなく各ラウンドの結果を追うことが大切です。
注目ポイント2:期初順位1位の糸谷九段の残留争い
前期の名人挑戦者だった糸谷九段は、今期の期初順位こそ1位ですが、現在は1勝3敗です。
順位1位という立場は同成績時の序列では有利に働きますが、勝敗そのものを補うものではありません。残り5局でどこまで勝ち星を伸ばせるかが問われます。
注目ポイント3:伊藤二冠と千田八段の初白星
伊藤二冠と千田八段はともに0勝4敗です。A級では下位2人が降級するため、今後の対局で勝ち星を挙げられるかが大きな課題になります。
ただし、4連敗した時点で降級が決まるわけではありません。残り5局の結果や他の棋士の成績次第で、順位は変動します。
順位表を見るときの判断基準
第85期を追いかける読者は、次の3点を押さえておくと、順位表の意味を理解しやすくなります。
- 名人挑戦を追う場合:勝ち星が最も多い棋士と、同率首位のプレーオフ条件を確認する。
- 残留争いを追う場合:下位2人の勝敗だけでなく、期初順位による同成績時の序列も確認する。
- 棋士の実力を比較する場合:期初順位と今期の勝敗を混同せず、対局相手や残り日程も考慮する。
特に重要なのは、順位表の左側にある順位番号を現在の強さランキングと誤解しないことです。A級順位戦では、前期から引き継いだ序列と、今期の対局成績という2つの情報が同時に存在しています。
【順位戦A級】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:A級棋士は何人いますか?
A1:原則10人です。10人が総当たりで対局するため、各棋士は1期につき9局を戦います。
Q2:A級順位戦で優勝するとどうなりますか?
A2:最高成績者が名人戦七番勝負への挑戦権を獲得します。現名人と対戦し、先に4勝した棋士が名人になります。
Q3:A級順位戦で同率首位になった場合はどうなりますか?
A3:最高成績者全員によるプレーオフを行います。3人以上の場合は、順位下位の2人から対局するパラマス方式で挑戦者を決めます。
Q4:A級からB級1組に降級するのは何人ですか?
A4:原則2人です。9局終了後の成績下位2人が翌期にB級1組へ降級します。同じ成績の場合は前期の順位が基準になります。
Q5:順位戦A級の持ち時間は何時間ですか?
A5:各6時間です。先手・後手それぞれに6時間が与えられます。長時間の読み合いがA級順位戦の大きな特徴です。
Q6:将棋界の一番長い日とは何ですか?
A6:A級順位戦の最終局が行われる日の通称です。名人挑戦権や降級を左右する複数の対局が同日に行われるため、将棋ファンから大きな注目を集めます。
Q7:2026年度の第85期A級順位戦で首位にいるのは誰ですか?
A7:2026年11月2日時点では、永瀬拓矢九段と豊島将之九段がともに4勝0敗です。増田康宏八段が3勝1敗で追っています。
まとめ:2026年度A級順位戦は名人挑戦と残留争いの両方に注目
第85期A級順位戦は、永瀬拓矢九段と豊島将之九段が4連勝で並び、増田康宏八段が追いかける展開となっています。一方、糸谷哲郎九段、伊藤匠二冠、千田翔太八段など、巻き返しを求められる棋士もいます。
A級順位戦の基本は、原則10人による9局の総当たり戦です。最高成績者が名人挑戦権を獲得し、同率首位ならプレーオフを実施。成績下位2人は原則としてB級1組へ降級します。
また、順位表の順位は前期から引き継がれた序列であり、現在の勝敗による順位とは異なります。この違いを理解すると、プレーオフや降級争いの仕組みがより明確になります。
次の第5回戦は2026年11月16日から20日に予定されています。加えて、2027年2月1日の第8回戦、3月3日の最終局へと戦いは続きます。永瀬九段と豊島九段の首位争い、糸谷九段らの巻き返し、そしてA級残留をかけた終盤戦まで、第85期A級順位戦は今後も目が離せません。
参照した主な資料: 日本将棋連盟「第85期名人戦・順位戦 A級」「順位戦について」「名人戦・順位戦の過去の結果」、第85期A級第5回戦の対局予定、将棋界の一番長い日の歴史に関する報道。